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嫉妬

 フェアリのおかげで、両親と心が通じ合えた。心のわだかまりが次第に消えていく。小さな竜は人々の心を和ませる力ももっているようだ。

 久しぶりの家族との和やかな食事を終えたセレムは、フェアリを抱いて部屋の窓辺に佇んでいた。満ち足りた気分で窓の外を見上げる。空は夕焼けで真っ赤に染まっていた。明日も竜の谷に行く予定だ。竜のことについて、まだまだ学ばなければならないことはたくさんある。

 セレムが窓辺を離れようとした時、フェアリが窓の外の方へ首を突き出しクゥクゥと鳴いて手足をばたつかせた。

「どうしたの?」

 フェアリの視線の先をたどると、しばらくしてアンナが歩いてきた。手には籠を抱えている。フェアリの視線はその籠にくぎ付けになっているようだ。

 アンナの誘いを断ったことが、セレムにはなんとなく気まずい。だが、アンナは気にすることなく、セレムに近寄って来た。

「こんに……!?」

 アンナはセレムが抱えている竜の赤ちゃんに驚き、言葉を飲み込む。

「何よ、それ?生きてるの?」

「今日生まれたばかりの竜の子供だよ。山の中で見つけたんだ」

「竜の子供?……」

 フェアリは、大きな目をくりくりさせてアンナの方へ首を伸ばす。

「気味悪いわ」

 アンナが一歩後ろに下がった時、フェアリはアンナが抱えていた籠の中に首を突っ込んだ。

「あっ……」

 セレムが止める間もなく、フェアリは籠の中に入っていたケーキをほおばった。口を大きく開けてもぐもぐと美味しそうに食べる。

「もう!何すんのよ!」

 アンナはフェアリから籠を引き離したが、既にケーキの半分はなくなっていた。

「ごめん、まだ赤ん坊だから、何でも口にしてしまうんだ」

「せっかくセレムにケーキを作って来たのに!」

「僕に?……それなら良いよ。フェアリが食べても」

 セレムはほっとする。だが、アンナの機嫌は悪い。

「良くないわよ!……フェアリって?」

「この子の名前だよ。フェアリは僕の竜なんだ」

「セレムの竜?……セレムも竜使いになるってこと?」

「うん」

 セレムは少しはにかんで微笑む。アンナには意外だった。セレムが竜使いになるなんて考えられない。いつも弱気なセレムだったのに、なんだかとても堂々として見える。急にセレムの態度が変わったような気がして、アンナは落ち着かない。セレムが自分の手の届かない所に行ってしまいそうな感じがする。

「ねぇ、昨日あげた花飾りはどこに置いたの?」

 アンナは話を変え、窓から部屋の中を覗いた。

「あれは……」

 セレムは返事に困る。アンナに内緒でアリシアにあげてしまった。

「もう枯れちゃったよ」

「嘘、昨日摘んだばかりの花よ。他の花はまだ元気なんだから枯れるはずないわ」

「……」

 見え透いた嘘をついてしまったセレムは、フェアリを抱いたままアンナに背を向ける。フェアリはまだケーキが欲しくて、手足をばたつかせていた。

「ごめん。ギルがもう一つ欲しがったからあげたんだ」

「……何よ、最初からそう言えばいいじゃない。何で嘘つくの?」

 アンナは口をとがらせる。

「きっと、私が知らない竜使いにあげたんでしょ。私は知らない人だって言ってたわよね。その竜使いと遊びに行ってたんだわ」

 図星だった。だが、アリシアのことはアンナに話したくはなかった。 セレムはもう一度アンナの方を向いた。

「……花飾りのことは、ごめん。でも、僕は竜使いになるって決めたから、前のようにアンナと一緒にはいられない。竜使いの修行をしたいから、竜の谷に行くことが多くなると思うんだ」

「……」

 セレムにはっきりと告げられ、アンナは口ごもる。いつも一緒のセレムが自分から離れていく。アンナは、どうしようもない怒りがこみ上げてきた。

「何よ、竜使いなんて!……」

 竜のフェアリは、アンナの方に手を伸ばしながら、セレムの腕の中で無邪気に鳴いた。『竜にセレムを取られた!』アンナはフェアリのことを憎らしく思う。ケーキの入った籠をフェアリめがけて投げつけ、アンナは走って帰って行った。籠はフェアリの体に当たり、中のケーキが床に飛び散った。その拍子に、フェアリもセレムの腕から床に落ちる。

「フェアリ!」

 セレムは慌てるが、籠をぶつけられたフェアリは、痛がりもせず床に落ちたケーキに手を伸ばして食べ始めていた。

読んで下さってありがとうございます!

今回は謝ってばかりのセレムでした…(^^;)なんだか、浮気がばれちゃった!?みたいな感じになってしまいました。もちろんそういう関係ではありません。(^^;)

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