竜使いの誕生
真っ白な小さな竜は、セレムの腕の中でスヤスヤと眠っている。セレムのことを主人だと思い、すっかり安心しきっている。その寝顔を見て、セレムは竜を愛おしく思った。
竜の谷に戻って来たアリシアとセレムは、生まれたばかりの赤ちゃん竜を皆に披露した。皆新しく竜が生まれたことに驚いていた。この近くではもう何年も竜の誕生はなかった。
「あの光りはやっぱり竜の卵だったんだね!」
ギルはセレムが抱いている竜を覗き込み、そっと体に触った。
「可愛い。柔らかくてぽやぽやしてる」
「めでたいことじゃ。また新しい竜の命が生まれたのじゃな」
揺り椅子に座っているコルバは、椅子を揺らしながら目を細めて笑う。
「この国にもまだ竜がいたとはな。竜の谷以外で竜を見たのは初めてだ」
シンも物珍しそうに白い竜を見つめる。
「そうね。私が住んでいる南の国には、まだ竜がたくさん住んでいるんだけど……この子は竜の谷の最後の竜になるかもしれないわ。大切に育てなきゃ」
「誰が竜の面倒をみるの?」
アリシアが言うと、レナが質問した。
「この子はセレムの竜よ。セレムを主人に選んだんだと思うの」
「セレムの竜?……」
レナは驚く。
「セレムも竜使いってこと?」
「……」
セレムは竜を抱いたまま戸惑う。ラルフのような竜使いになることが、幼い頃の夢だった。しかし今、実際に竜の赤ちゃんを手に入れても、どうしたら良いのか分からない。
「ほぉっ、ほぉっ、新しい竜と新しい竜使いの誕生じゃ。めでたさも二倍じゃな。ギルや、今日は御馳走を作っとくれ。宴会じゃ」
セレムの心配をよそに、コルバは浮かれ気分だ。
「でも、僕……竜の育て方なんて分からない。竜使いになる自信なんてない」
「心配するでない。竜は放っておいてもすぐに大きくなるわい。ここにはたくさん竜使いがおるじゃろ。わしもそのうちの1人じゃ」
コルバは笑った。
「簡単だよ、セレム。竜はすぐに何でも食べるようになるよ。最初だけミルクを飲ませてあげればいいんだ」
ギルがそう言った時、セレムの腕の中の竜が目を覚ました。大きな口を開けて欠伸をすると、そわそわと辺りを見回してクゥクゥと鳴いた。
「さっそく腹を空かせたみたいだぜ。最初の1,2週間は、付きっきりで世話してやらなきゃな」
シンが言う。
「セレム、いらっしゃい。一緒にミルクをあげましょう」
「……はい」
アリシアに促されて、セレムは後に続く。アリシアが側にいてくれたら、とても心強くなるセレムだった。
「この子の名前はもう決めた?」
「ううん、まだ」
「どうやら、女の子のようよ。真っ白でとても美人になりそうね」
アリシアは微笑む。
「ア、アリシアの竜の方が綺麗だよ……」
『アリシアの方が綺麗』と言いそうになり、セレムは1人で赤くなる。白い竜は大きな水色の瞳で、じっとセレムを見つめていた。自信のないセレムでも、竜はセレムを頼り信頼しきっている。この竜のためにもしっかりしなくては、とセレムは思う。
守ものが出来た時、大切なものを得た時、前より強くなれるような気がした。
「この子はフェアリ……フェアリっていう名前にする」
セレムは顔を上げて、アリシアに言った。
「フェアリ?良い名前ね。この子にピッタリだわ」
小さな白い竜、フェアリは、セレムとアリシアの顔を代わる代わる見ながら、自分の名前に満足したように鳴いた。愛しいフェアリを見つめながら、セレムは竜使いになることを決心した。
読んで下さってありがとうございます!
6人同時の会話は、難しかったです……(^^;)皆に話させ、誰が話しているか分かるようにするのは大変ですね。分かったもらえたら良いですが。(^^;)