竜の誕生
「あれは?もしかしたら……」
アリシアはその光りに釘付けになる。
「セレム、下に降りてみましょう!」
クレスを操縦し、アリシアは光りの元まで高度を下げていった。光りに近づくにつれ、輝きは増してくる。太陽のように差す光に目がくらみそうだ。
やがて、光源の真上に来るとセレムは驚きの声を上げた。
「卵だ!卵が光ってる!」
山頂の木々の間に、両手の平で抱えられるくらいの大きさの白い卵があった。強い光りは卵から発せられている。
「セレム、あれは竜の卵よ」
「竜の卵!?……」
ギルが言っていた、竜の卵はかえる寸前に光るのだと。あの卵からもうじき竜が生まれようとしているのだろうか?セレムはだんだん興奮してきた。
「竜が生まれるのかな!?」
「あんなに光っているなら、誕生間近だと思うわ」
アリシアはクレスを木々の間にそっと着陸させた。まわりの木々も卵の光りに照らされて、眩しく光っている。クレスから降りると、セレムは卵の元まで走って行った。卵は、太い木の幹の間にひっそりとのっていた。光りが眩しくて直視出来ないが、卵は微かに動いているように見える。
「こんな所に竜の卵があるなんて、思ってもみなかった」
後から来たアリシアが呟く。
「竜の親もいるのかな?」
「竜の親は子育てはしないわ。きっと、どこかの竜が産み落とした卵ね。竜の卵は孵化するまでに長い時間がかかるの。それまでに死んでしまったり、動物に襲われたりすることもあるから、無事に孵化出来る卵は少ないのよ」
「でも、この卵は大丈夫だね?ちゃんと生きてる」
「そうね。」
アリシアは微笑む。
「見つけてくれた人が良かったわ。竜は卵からかえった後も1人では生きていけないの。だから、卵が光って竜使いを呼ぶのよ」
「そうか……だから、アリシアを呼んだんだね?」
「私を呼んだんじゃないと思うわ」
「え?……」
「あっ、セレム見て」
セレムが卵の方を見ると、光り輝いていた卵が大きく動き白い殻に亀裂が走った。
卵の中で何かが動いている。光りに透けた卵に小さな生き物の姿が映った。
「あれが、竜?……」
固唾を呑んで卵を見つめているセレムの目の前で、卵の亀裂から小さな竜が頭を覗かせた。真っ白な体、水色の大きな瞳でキョロキョロとあたりを見回している。
「主人を探しているのよ。セレム、あの子の側に行ってあげて」
「僕が?……」
不思議がるセレムをアリシアは後押しする。
「……」
セレムはゆっくりと小さな竜に近づく。卵が割れると共に、光りはだんだんと弱まってきた。
白い竜はセレムの姿を確認すると、首を伸ばし小さな腕を出して、残りの殻を破って出てきた。そして、たどたどしい足取りでセレムに近づいてくる。まだ、子犬ほどの大きさしかない。白い竜はセレムの足元まで来ると、セレムを見上げてクゥと小さく鳴いた。どうしたらいいか分からないセレムは、振り返ってアリシアを見る。
「抱いてあげて。その子はあなたの竜よ」
「……僕の竜?」
戸惑いながら、そっと竜に手を差し伸べると、赤ちゃん竜は勢いよくセレムの腕の中に飛び込んできた。竜の温もりを感じながら、セレムはしっかりと生まれたばかりの竜を抱きしめた。
読んで下さってありがとうございます!
ようやく赤ちゃん竜が登場しました〜竜の誕生とか習性については、私の想像です。(^^;)竜の谷の竜はそうなんだと思ってくださいね。実物の竜を見たことがないもので……