銀色の竜に乗った人
黄色い木苺と花飾りを交換して、ギルは嬉しそうに花飾りを頭に乗せた。
「似合う?」
「うん……」
益々女の子らしくなるギルを見て、セレムは言葉に詰まる。
「じゃあ、竜の谷に行こうか。アンナも一緒に来る?」
「嫌よ、竜に乗るなんて。落ちたら死んじゃうわ」
「落ちたりしないよ。ルピィは竜の中でも一番ゆっくり飛ぶんだから」
「嫌。あの男みたいな竜使いに会いたくないから」
アンナはツンとして、木苺を花と一緒に籠に入れロバの背に乗せた。。
「フフ、レナと喧嘩になるかもしれないもんね」
「私、帰る」
アンナはそう言ってロバの背にまたがった。
セレムとギルがルピィに乗って空に舞い上がっても、アンナはロバの上からじっとセレム達を見上げていた。
「アンナ、なんで怒ってるのかな?」
ふくれっ面をして睨み続けているアンナを見下ろしながら、ギルは不思議に思う。
「分からない……でも、アンナはよく怒るから」
「そう?レナと一緒だね。僕はいつも怒られてばかり」
ギルは笑った。アンナの姿が豆粒のように小さくなり、やがて視界から消えると、セレムはもらった花飾りをギルに渡した。
「ありがと。これはアリシアにあげるよ。彼女は花が大好きだから」
険しい山を越えて竜の谷が見えてくると、セレムの心は一層弾んでいった。まだ一度しか行ったことのない場所なのに、故郷に帰って来たような懐かしさと温かさがあった。
ルピィはゆっくりと竜の谷間に向かって降りていく。と、ギル達の家の前に銀色に光るものが見えた。日の光に反射してキラキラと輝いてる。
「あっ、クレスがいる!クレスは綺麗だなぁ」
ギルが下を見て言う。
「クレス?」
「アリシアの竜だよ。銀色をしてるんだ。でも、僕が一番好きなのはルピィだから」
クゥと喉を鳴らすルピィの首を、ギルは微笑んでなでる。高度が下がると、銀色の竜の姿がはっきりと見えてきた。まばゆいばかりに光る銀色のウロコは、美しい。その竜の横に、1人の女性が佇んでいた。
「アリシアー!」
ギルが手を振りながら声をかけると、アリシアという女性はゆっくりと振り返った。金色の長い髪がキラキラ光って、銀色の竜以上に美しかった。アリシアは、着地したギル達を見ると微笑んだ。
「お帰りなさい」
「はい、これプレゼントだよ!」
ギルはルピィの背からぴょんと降りると、花飾りをアリシアに差し出した。
「まぁ、綺麗な花飾りね!とても良い香りがするわ」
アリシアは花飾りを顔に近づけて、甘い香りを吸い込んだ。
「ありがとう。そちらがお友達?」
アリシアはルピィの背に乗っているセレムに目をやる。
「そうだよ、セレムって言うんだ」
「私はアリシア。これは私の竜クレスよ」
アリシアはセレムに微笑みかけ、竜のクレスの背をさすった。
「どうしたの?セレム。降りといでよ」
ルピィに乗ったまま降りてこないセレムに、ギルは声をかける。
「……」
セレムは伏し目がちに、ゆっくりと竜から降りた。何故かアリシアを見るたびに心臓がドキドキして顔が熱くなってくる。セレムより年上で大人の雰囲気がただよう美しい人。
「……は、初めまして。セレムです」
セレムは小さな声で、ようやくそれだけ言えた。アリシアが輝いて見えるのは、日の光で輝く髪の毛のせいだけではない。アリシアの微笑みを見て、セレムは思った。