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花畑で

 竜の谷から帰って数日がたった。

 もう牛達の世話を任されることはなかったが、セレムは少しずつ家の仕事をするようになった。家族のために働きたいというのが、セレムの小さな願いだ。

 その日は朝から庭で薪を割っていた。いつもは父親がしていたが、セレムは見よう見まねでやってみた。単純に見える仕事でもやってみると力がいるし、上手く割るのは難しかった。それでもラルフやシンに少しでも近づきたい。両親に認めて欲しい気持ちでいっぱいだった。

 斧を振り下ろしコンッと勢いよく薪が割れた時、アンナが走って庭に駆け込んできた。

「セレム!久しぶりね。何してるの?」

 見れば分かることをアンナはわざわざ聞いた。

「薪割り」

「もうたくさん割ったでしょ。私と遊びに行きましょうよ。今日は母さんが出かけていないからゆっくり遊べるわ」

「でも……」

 まだ薪割りを始めたばかりで、用意した木の半分も割っていなかった。

「丘の上に珍しい花がたくさん咲いてるところがあるの。たくさん摘んで売りに行きたいのよ。花飾りも作りたいし」

 アンナは楽しそうに笑うと、斧を下ろしたセレムの腕をとった。腕を掴まれては、もう薪割りは出来ない。

「セレムにも花飾りを作ってあげる」

「……」

 花飾りをもらってもちっとも嬉しくはない、とは言えないセレムだった。

「残った薪は後で割ればいいわ」

 アンナはセレムの腕を引っ張る。

「ロバに乗って行きましょう!そこに止めてあるの」

 薪割りの仕事を気にしながらも、セレムはアンナの誘いに従うしかなかった。


 ロバの背に揺られ、セレムとアンナはゆっくりと丘に向かった。アンナが案内した丘には、色とりどりの花が辺り一面に咲き誇っていた。甘い香りが漂い、蝶や蜂が飛び交っている。

「蜜蜂には気をつけて。花の中に入り込んでることがあるから」

 ロバから降りると、アンナは早速花を摘み始めた。セレムもロバを降りて花を摘む。アンナは楽しそうに歌を歌いながら、摘み取った花を次々と籠の中に入れていく。花を摘むことがそんなに楽しいことだろうか、と不思議に思うセレムだった。

 籠の中が花でいっぱいになると、アンナは摘んだ花で花飾りを作り始めた。

「待っててね。特別綺麗な花飾りを作ってあげるからね」

「……」

 嬉しそうなアンナを後目に、セレムは花の間にごろんと横になった。花の香りに酔ってしまいそうだ。目をつぶりうとうとしかけた頃、セレムを呼ぶ声が頭上から聞こえてきた。

「セレムー!」

 目を開けると、空からルピィに乗ったギルが降りてくるところだった。ルピィはゆっくりと舞い降りて来て、アンナとセレムの元に着陸した。

「あんた、この間の女みたいな双子の竜使いね」

 セレムとの二人だけのひとときを邪魔されたアンナは、面白くなさそうにギルを見る。

「君はアンナだったよね?わぁ、綺麗な花飾り」

 ギルはアンナが手にしている円形の花飾りを見つめる。

「これはセレムのよ」

 アンナは花飾りを後ろに隠す。

「いいなぁ。後二つ作ってよ」

「嫌。綺麗に作るの大変なんだから」

「なら、この木苺と交換でどう?」

 ギルは、竜の背の籠から黄色い苺を差し出す。

「竜の谷でしか採れない珍しい苺だよ」

「……」

 アンナは美味しそうに熟れた苺をじっと見つめる。

「いいわ。でも、一つだけよ」

 木苺の誘惑に負けたアンナは、早速花を摘みに行く。

「僕の花飾りをあげるよ……」

 セレムは小声でギルに言った。

「ほんと?いいの?」

「アンナには内緒だよ」

 喜ぶギルにセレムは念を押す。

「花飾りが出来たら一緒に竜の谷に行こう。セレムを呼びに来たんだ」

「僕を?でも、今日は夜までには戻らなきゃ。薪割りの仕事を放ったままだから」

「いいよ、夕方までには送ってあげる。今朝、アリシアが竜の谷に来たから、セレムにも紹介したかったんだ」

「アリシア?」

「彼女も竜使い。遠い国に住んでいるんだけど、時々竜の谷にやってくるんだ」

「ふ〜ん」

 また竜の谷に行けると思うと、セレムの心は弾んだ。

読んで下さってありがとうございました!

セレムは「ノー」と言えない、優柔不断なとこのある性格のような気がしました。時として残酷…(^^;)

もうそろそろ物語は後半に入ります。ラストスパートで頑張りたいです。

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