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時は流れる

 日が沈みかけた頃、竜の谷にレナを乗せたレピィが帰って来た。家の外にいたギルはレナだけが帰って来たことを不思議に思う。

「シンとセレムは?」

 レピィから降りたレナにギルは聞く。

「ハーンに乗ってセレムを家まで送ってった」

 レナは短く答えると、竜の背からキノコの入った籠を下ろした。

「えっ?セレムはもう帰ったの?もう一晩泊まるのかと思ったのに。せっかくセレムの分も特性ミートパイ作ったのにな」

「セレムは自分の家で過ごす方がいいんだよ」

「残念だなぁ。髪飾りも完成したからセレムに見せようと思ったのに」

「……ギルも籠を運びな」

 レナはキノコの籠を抱え上げる。

「ね、もうすぐアリシアが来るよね?」

「さぁ……」

 嬉しそうに話すギルとは対照的に、レナは口ごもる。

「楽しみだなぁ」

「なぁ、ギル……」

 重そうに籠を抱えるギルにレナは言う。

「何?」

「あたしたちは赤ん坊の時森に捨てられてたんだよね?」

「うん、コルバ爺さんが森で拾ったって言ってた」

「どれくらい森の中にいたんだろう?」

「さあねぇ?赤ん坊だったからわかんない」

「あたしさ、森で夜を過ごしたような気がする。……だから、今でも夜の森って苦手なんだ。きっと恐かったんだと思う」

「ほんとに?僕は全然覚えてないや」

「あんたはね……」

 レナは軽くため息をつくと、キノコの籠を持ち上げた。

「?レナにも恐いものがあるんだ?」

「フン……」

 笑うギルを置いて、レナは家に入って行った。


 セレムは家に帰って来た。何も変わっていない、いつもと同じ家。両親はセレムが竜の谷に泊まったことについて、特に何も言わなかった。竜の谷のことを聞くわけでもなく、もう行ってはいけないと言うわけでもない。いつものように何も語らない。

 セレムには慣れっこだ。けれど、もしかしたら両親は「語らない」のではなく、「語れない」のではないかと、セレムは思った。

 両親もセレムと同じように、過去を思い出すのが恐いのかもしれない。

 森の中で泣きながらシンに打ち明けたラルフの話。今まで誰にも語らなかった辛い記憶。両親は決してセレムを責めたりしなかった。行き場のない深い悲しみは、いつの間にか家族の中に暗い影を落とし月日と共に広がっていったのかもしれない。

 シンはセレムの話をじっと聞いてくれた。

「コルバ爺はいつも言ってる。どうしようもない悲しみを癒してくれるのは時の流れだけだと。慰めの言葉も優しい言葉も本当の悲しみを癒してくれはしない。泣きたいだけ泣いて悲しむだけ悲しんだら、時が全てを包み込んで苦しい気持ちを忘れさせてくれる。全てのことは時が解決してくれる。八十年近く生きてきた人間の言うことだ、信じてみるのも悪くないだろう」

 そうシンは言った。セレムの悲しみが癒されるには、まだまだ時の流れが必要なのかもしれない。しかし、シンに語ったことでセレムの心は少しだけ軽くなったような気がした。

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