兄の墓
「セレムー!セレムー!」
セレムを呼ぶ声がこだまして、草原の向こうから長い髪を三つ編みに束ねた少女が、息を切らせながら駆けてくるのが見えた。両手に大きな花束を抱えている。セレムは無表情に突っ立ったまま、少女が来るのを待った。
「母さんとお花畑でいっぱい花を摘んできたの」
道の向こうから、ロバをひいた少女の母がゆっくりと歩いて来る。ロバの背には、籠いっぱいに色とりどりの花が摘まれていた。
「明日、街に売りに行くわ。はい、これはセレムに!」
少女は笑顔いっぱいに、花束をセレムに差し出した。
「お誕生日おめでとう!」
「…ありがと」
花束を受け取り、セレムはぼそっと呟く。
「アンナ!何してるの、帰るよ!」
道の向こうで、母親が叫ぶ。
「じゃあ、またね!」
アンナはセレムに手を振ると、また急いで元来た道を駆けていった。幼なじみのアンナは、セレムの唯一の友だちだ。アンナだけは、セレムに優しかった。明るいアンナ、その明るさは、時としてセレムの心をかき乱す。
「ラルフ兄さんと同い年…」
セレムは花束を抱え、牛達のいる場所とは反対の方へと向かった。
草原を見渡すなだらかな丘の上に、小さな村の小さな共同墓地がある。古い時代の石碑もあれば、最近作ったばかりの石碑もあった。一つ一つの石碑が、それぞれの人生を刻んでいた。
セレムは、墓地中央の比較的新しい石碑の前で立ち止まる。墓にはまだ新しい花束が置かれていた。毎日のように両親が訪れるため、墓に花束がとぎれることはなかった。セレムは貰ったばかりの大きな花束を、そっと花の横に供えた。
「ラルフ、今日で同じ年になったよ。今までずっと僕の兄さんだったけど、今日からは段々僕の方が年上になっていくんだね。なんか変な感じだな…」
普段、無口なセレムだが、ラルフの墓の前では雄弁になる。心の内を話せるのは、ラルフだけだった。
「僕が覚えているラルフ兄さんは、すごく背が高くて大人に見えた。何でも知っていて、頼りがいがあった。でも、本当はまだ子供だったんだよね。ラルフだって恐かったんだ。僕のために死ぬのは早すぎる…」
ラルフの命の時が止まって以来、セレムと両親の時も一緒に止まってしまったようだ。家族に暗い影を落としたまま、何もかもが止まってしまった。
あれから、セレムは心の扉を閉じて、しっかりと鍵をかけてしまった。
読んで下さってありがとうございました!
暗い気分で始まりましたが^^;、これから登場人物も増えていき段々と明るくなっていく予定です。ぼちぼちと進めて行きます。軽い気持ちで読んで下さいね。