消えない傷
雨足が早くなる。うずくまったセレムの体を冷たい雨が打ちつける。
「セレム!」
シンがセレムの元に駆け寄り肩を揺するが、セレムは動こうとしなかった。
「なんだよ弱虫!雷なんか恐くないさ!早くキノコを運ばないと」
レナはキノコの入った籠を持ち上げる。
「どこかで雨宿りするか」
シンがそう言った時、また鋭い雷の音が鳴り響いた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ラルフ!!」
セレムは泣き叫ぶ。雨と涙で顔は濡れ、金縛りにあったみたいに体がひきつった。
「セレム」
誰かが呼ぶ声が遠くで聞こえたが、セレムはそのまま気を失った。
森に出かけたのは、ほんの悪戯心からだった。
ラルフは最近竜のコーリーと遠くに出かけてばかりで、あまり遊んでくれなくなった。『竜に乗って遊びに行こう!』とねだっても、『また今度な。今日は大事な用があるんだ』と、1人で出かけて行った。
ラルフが竜の谷に出かけて修行をしていることを、セレムは理解出来なかった。
『ぼくがいなくなったら、ラルフが探しに来てくれる』
セレムはラルフを驚かせようと、1人で遠くの森まで歩いて行った。薄暗く寂しい森。セレムは恐かったが、ラルフが迎えに来てくれると思ってどんどん歩いて行った。同じような森の道。セレムはすぐに迷ってしまった。
いくら待ってもラルフは来ない。そのうち森は暗くなり雨も降り出した。雷の音も聞こえ、セレムの恐怖は増す。大きな木の下で雨宿りして、泣きながらラルフを待っていた。
やがて森が真っ暗になり、嵐のような雨が降り出した頃。ラルフがコーリーに乗って探しに来てくれた。
『セレムー!』
ラルフの声を聞いた時、セレムは怖さも忘れ飛び上がって喜んだ。
『ラルフー!ラルフー!』
セレムが必死で呼び続けると、コーリーとラルフが見つけてくれた。
『セレム!』
嬉しそうなラルフの顔。しかし、次の瞬間森の中が昼間のように明るく光ったかと思うと、激しい雷鳴が鳴り響いた。雷がセレムのいる木の上に落ち、炎が舞い上がりミシミシという音がした。大きな木がセレムの上に落ちて来る瞬間、コーリーとラルフが間に入りセレムを救ってくれた。
木の裂ける大きな音。コーリーとラルフの悲鳴。衝撃で投げ出されたセレムが気づいた時、コーリーとラルフは燃える巨木の下敷きになっていた。驚いたセレムが近づこうとすると、ラルフは弱々しくセレムを手で制した。
『そこにいろ、セレム……』
微かに微笑んで、ラルフはそのまま目を閉じた。永遠に……。
「ラルフー!!」
セレムは叫んで飛び起きた。ここがどこなのか、何をしていたのか、一瞬分からなかった。
「やっと気づいたか。お前を運ぶの大変だったぞ」
シンが笑って言った。隣りにはレナもいる。
「ここは?……」
セレムがあたりを見回すと、そこは大きな木の幹空洞の中だった。
「雷くらいで気を失うなんてさ」
レナは立ち上がり、外へ出ていく。
「雨はもう上がったよ。帰ろう」
「そうだな」
セレムは安心したせいか、急に涙が溢れてきた。涙を拭いながら声を出して泣いた。
「どうした?」
「僕のせいだ。僕のせいでラルフは死んだんだ。僕がラルフを殺したんだ……」
シンが近づくと、セレムはシンに抱きついて泣いた。
「ごめんなさい……ごめんなさい」
泣き続けるセレムを、シンはそっと抱きしめた。
「セレム、心の内を話してみろ。全部吐き出してみたら、きっとすっきりするぜ。時間はたっぷりある。お前の話に最後までつき合ってやるから」
あの時から消えない心の傷。ラルフのことを思い出すだけで傷む心。セレムはシンにしがみついて泣き続けた。
「……」
レナは黙ってシンとセレムを見ていた。
「レナは先に帰っていいぞ。俺は後からセレムと帰る」
突っ立ってるレナに、シンは言う。
「……雨が上がったから、もう少しこの辺を見てくる」
レナは籠を手にすると、外に出ていった。
読んで下さってありがとうございます!
感想、評価ありがとうございました。とても励みになります。読んで期待を裏切らせてしまった方すみません!私はご期待にこたえられるような者ではございません(言い訳^^;)これからも自分なりに頑張って完結を目指します。よろしくお願いします。m(_ _)m