表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/42

消えない傷

 雨足が早くなる。うずくまったセレムの体を冷たい雨が打ちつける。

「セレム!」

 シンがセレムの元に駆け寄り肩を揺するが、セレムは動こうとしなかった。

「なんだよ弱虫!雷なんか恐くないさ!早くキノコを運ばないと」

 レナはキノコの入った籠を持ち上げる。

「どこかで雨宿りするか」

 シンがそう言った時、また鋭い雷の音が鳴り響いた。

「ごめんなさい!ごめんなさい!ラルフ!!」

 セレムは泣き叫ぶ。雨と涙で顔は濡れ、金縛りにあったみたいに体がひきつった。

「セレム」

 誰かが呼ぶ声が遠くで聞こえたが、セレムはそのまま気を失った。


 森に出かけたのは、ほんの悪戯心からだった。

 ラルフは最近竜のコーリーと遠くに出かけてばかりで、あまり遊んでくれなくなった。『竜に乗って遊びに行こう!』とねだっても、『また今度な。今日は大事な用があるんだ』と、1人で出かけて行った。

 ラルフが竜の谷に出かけて修行をしていることを、セレムは理解出来なかった。

『ぼくがいなくなったら、ラルフが探しに来てくれる』

 セレムはラルフを驚かせようと、1人で遠くの森まで歩いて行った。薄暗く寂しい森。セレムは恐かったが、ラルフが迎えに来てくれると思ってどんどん歩いて行った。同じような森の道。セレムはすぐに迷ってしまった。

 いくら待ってもラルフは来ない。そのうち森は暗くなり雨も降り出した。雷の音も聞こえ、セレムの恐怖は増す。大きな木の下で雨宿りして、泣きながらラルフを待っていた。

 やがて森が真っ暗になり、嵐のような雨が降り出した頃。ラルフがコーリーに乗って探しに来てくれた。

『セレムー!』

 ラルフの声を聞いた時、セレムは怖さも忘れ飛び上がって喜んだ。

『ラルフー!ラルフー!』

 セレムが必死で呼び続けると、コーリーとラルフが見つけてくれた。

『セレム!』

 嬉しそうなラルフの顔。しかし、次の瞬間森の中が昼間のように明るく光ったかと思うと、激しい雷鳴が鳴り響いた。雷がセレムのいる木の上に落ち、炎が舞い上がりミシミシという音がした。大きな木がセレムの上に落ちて来る瞬間、コーリーとラルフが間に入りセレムを救ってくれた。

 木の裂ける大きな音。コーリーとラルフの悲鳴。衝撃で投げ出されたセレムが気づいた時、コーリーとラルフは燃える巨木の下敷きになっていた。驚いたセレムが近づこうとすると、ラルフは弱々しくセレムを手で制した。

『そこにいろ、セレム……』

 微かに微笑んで、ラルフはそのまま目を閉じた。永遠に……。


「ラルフー!!」

 セレムは叫んで飛び起きた。ここがどこなのか、何をしていたのか、一瞬分からなかった。

「やっと気づいたか。お前を運ぶの大変だったぞ」

 シンが笑って言った。隣りにはレナもいる。

「ここは?……」

 セレムがあたりを見回すと、そこは大きな木の幹空洞の中だった。

「雷くらいで気を失うなんてさ」

 レナは立ち上がり、外へ出ていく。

「雨はもう上がったよ。帰ろう」

「そうだな」

 セレムは安心したせいか、急に涙が溢れてきた。涙を拭いながら声を出して泣いた。

「どうした?」

「僕のせいだ。僕のせいでラルフは死んだんだ。僕がラルフを殺したんだ……」

 シンが近づくと、セレムはシンに抱きついて泣いた。

「ごめんなさい……ごめんなさい」

 泣き続けるセレムを、シンはそっと抱きしめた。

「セレム、心の内を話してみろ。全部吐き出してみたら、きっとすっきりするぜ。時間はたっぷりある。お前の話に最後までつき合ってやるから」

 あの時から消えない心の傷。ラルフのことを思い出すだけで傷む心。セレムはシンにしがみついて泣き続けた。

「……」

 レナは黙ってシンとセレムを見ていた。

「レナは先に帰っていいぞ。俺は後からセレムと帰る」

 突っ立ってるレナに、シンは言う。

「……雨が上がったから、もう少しこの辺を見てくる」

 レナは籠を手にすると、外に出ていった。

読んで下さってありがとうございます!

感想、評価ありがとうございました。とても励みになります。読んで期待を裏切らせてしまった方すみません!私はご期待にこたえられるような者ではございません(言い訳^^;)これからも自分なりに頑張って完結を目指します。よろしくお願いします。m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ