雨の森
ハーンとレピィの二匹の竜を湖に残し、セレム達は深い森の中に入って行った。竜の谷の森より木々が茂り、中に一歩足を踏み入れると辺りは薄暗かった。聞こえるのは、遠くでさえずる鳥たちの声と草木をかき分け歩く音だけだ。
「見つけた!」
突然レナは声を上げ、大きな木の根元に駆け寄って行った。
「レッドツリーのキノコだ。いっぱいあるよ」
幹が赤みがかった木の根元から、レナはキノコを採り上げた。キノコも赤っぽい色をしている。大きな木のまわりには、たくさんのキノコがはえていた。
「こりゃ大収穫だな。珍しいキノコだから、高く売れるぞ」
シンもキノコを採り、持ってきた籠に入れる。セレムは初めて見るキノコだった。派手な色のキノコは毒をもっていることが多く、セレムは採るのをためらった。
「これ、食べられるの?」
「当たり前だろ、毒キノコなんか採らないさ」
かがんでキノコを採っていたレナは、むっとしてセレムを見上げる。
「ほんとに何も知らないんだから」
「……」
「滅多に採れるキノコじゃないからな。今晩食べてみるといい。普通のキノコとは比べ物にならないくらい美味しいはずだ」
シンに言われ、セレムも赤いキノコを採ってみた。鼻に近づけると食欲をそそる美味しそうな香りがした。
「竜使いは、植物やキノコの名前を覚えなきゃならない。セレムも少しずつ覚えていくといいな」
「うん」
セレムはキノコを籠に入れた。自分が竜使いになれたらどんなに素敵だろう、とセレムは考える。
持って来た籠がいっぱいになった頃、森に湿った風が吹いてきた。木々がざわざわと揺れている。
「そろそろ帰ろうか。一雨きそうだ」
シンは立ち上がって空を見上げる。
「もう少し遠くまで行ってみようよ。雨なんてすぐ止むさ」
レナは不服そうな顔をする。
「明日また行けばいい。今日はこれで充分だろ」
シンがそう言った後、ポツポツと雨粒が落ちてきた。
「濡れないうちに帰ろうぜ」
シンはキノコの入った籠に布をかける。遠くの方で小さく雷の音がした。セレムは不安気に空を見上げる。
「突っ立ってないで、あんたも籠を運んで」
「……」
レナが声をかけるが、セレムは棒立ちのまま動けなかった。雨はだんだん強く降り始める。
「もう!キノコが濡れるじゃないか」
レナはセレムが使っていた籠に、急いで布をかけた。
「どうした?セレム」
シンはセレムの様子を不審に思う。と、辺りが突然光り、大きな雷の音が鳴り響いた。
「ギャーッ!!」
セレムは悲鳴を上げ、両手で耳を押さえてうずくまる。 早鐘のように心臓が打ち、体中が震えた。




