午後のひととき
食事の後、シンとレナは残りの枝木を取りに森に出かけて行った。コルバは揺り椅子に座りうとうとと昼寝を始め、ギルは食事の後かたづけと皿洗いを始めた。セレムはギルを手伝って食器を台所に運んだ。
「ここの水は川から引いてるんだ。水を汲みに行かなくていいから便利だよ」
流し台の小さなポンプを押すと、澄んだ水が出てきた。
「洗濯も出来るし、お風呂にも入れる。今、お湯が出る水道を開発中なんだ」
「君が?……」
「ヘヘ、こう見えても僕は器用なんだよ。後で僕のコレクションを見せてあげる」
意外そうな顔をするセレムに、ギルは得意げに答える。
「みんな楽しそうだな」
人里離れた小さな谷でひっそりと竜と暮らす人々が、セレムはとても羨ましかった。
「仲の良い家族なんだね」
「うん、本当の家族みたいでしょ?」
ギルは洗ったお皿をセレムに渡す。
「本当の家族じゃないの?……」
「僕とレナは双子のきょうだいだけどね。赤ん坊だった僕達をコルバ爺さんが森で拾ってくれたんだって。シンも小さい時コルバ爺さんに引き取られたんだって言ってた」
「ふ〜ん……」
セレムは渡された皿を布で拭く。聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がして後悔した。だが、ギルは別段気にする風もなく、楽しそうに皿を洗っている。
「コルバ爺さんにも家族がいなくてずっと独り者だったから、寂しかったんだよきっと。それで、色んなとこから子供を集めて来たんだろうね」
「……」
他人同士でも本当の家族のような温かさがある。セレムは、心を通わすことの出来ない実の両親のことを思った。
「セレムには父さんと母さんがいるんだよね?父さんと母さんってどんな感じ?」
「どんなって言われても……」
セレムは言葉に詰まる。
「いなくても寂しくはないけど、どういうものなんだろうって思ってさ」
ギルは屈託なく笑う。
「……」
両親がいる自分より、いないギル達の方がずっと幸せそうなのは確かだとセレムは思った。窓辺の揺り椅子では、コルバがうとうととまどろんでいる。セレム達の話を聞いているのかいないのか分からないが、顔には微笑みが浮かんでいた。
「これがペンダントで、こっちがブローチ、それからこれは髪飾り」
後かたづけが終わった後、ギルはセレムを自分の部屋に案内して、箱に入った手作りの品物を披露した。木彫りの物、水晶で出来た物、石を加工した物、様々な種類のアクセサリーがあった。
「すごいなぁ」
セレムは精巧な作りの品々を見て感心する。
「結構よく売れるんだよ。時間があれば家で色々作ってるんだ」
ギルは机の上に置いていた作りかけの品を手にとって見せた。
「これは今作ってる髪飾り。後、色を塗って磨いたら完成なんだ」
薔薇の花を形取った木彫りの美しい髪飾りだった。
「特別注文だから、特に手間暇かけてるんだよ」
「ふーん、高く売れそうだね」
「フフン、ある人からプレゼント用に頼まれたものだからね」
ギルは意味ありげに微笑むと、大事そうに髪飾りを布に包んだ。
「ギルなら横笛も作れるかもしれないね」
「横笛?あぁ、シンが持ってるみたいなの?」
「うん……僕も持ってる」
セレムは懐の中から横笛を取りだし、ギルに見せた。
「シンの横笛に似てるね」
ギルは横笛を手に取りじっくりと眺めた。
「作った人が同じだから……」
「横笛は作ったことないけど、今度作ってみようかなぁ。よくできた笛だね、作った人はすごく器用な人だよ」
「……」
ギルの見立てた通り横笛は精巧に出来ている。ラルフもギルと同じくらい器用だったから。
竜の谷で過ごすひとときが楽しくて、セレムは時の立つのを忘れていた。気づいた時には、日は西の山に沈みそうになっていた。