諦め
今回もまた、父親のウィルが牛達を連れて帰っていた。
怒鳴られても、ひっぱたかれても良い、そうしたら自分が悪者になれるから。悪いことをしたと反省出来るから。けれど、ウィルは怒らなかった。
「セレムにはまだ早い仕事だな」
と、沈んだ声で答えるだけだった。母親のメーシーは黙ったまま何も言わなかった。しかし、メーシーの顔には諦めの表情がうかがえる。メーシーはセレムをちらりと見て軽くため息をつくと、食事の準備に取りかかった。
セレムはどう反応していいか分からない。泣けばいいのか?怒ればいいのか?どっちも出来ないまま、長い間過ごしてきた。ただ、自分は両親には期待されていないということはよく分かっている。いつの間にかセレムの感情は消え、黙り込む癖がついていた。そうすれば、傷つかなくてすむから。
テーブルの上には、まだ手をつけられていないポームの袋がそのまま置かれていた。また、今夜も静かな夕食が始まる。
次の日の朝。
さすがにウィルはもう、セレムに牛達の世話をさせなかった。学校も行かず、仕事もしないセレムには何もすることがない。不機嫌な顔で黙々と家事を進めるメーシーとも居づらい。セレムが横笛を片手に家を出ていこうとした時、家の上空でバタバタという羽音が聞こえてきた。ふと空を見上げると、一匹の竜が家の前に舞い降りてこようとしている。クリーム色のルピィとは違う、グレィの竜だった。グレィの竜は、スピードを上げたまま、スッと地上に降りてきた。竜の上には、レナが乗っている。
「?…」
「ギルの角笛を返して」
戸惑っているセレムに、竜の上からレナは言った。
「早く、昨日ギルが忘れて帰っただろ」
イライラしながらレナは言う。
「ギルは本当にガキなんだから。ちょっと目を離すとすぐ遊びに行ってしまう。今日は出ていかないよう見張っててもらった」
「…でも、君とギルは双子だから同い年だよ」
「!そんなことはどうでもいいんだよ!さっさと角笛を返して、あれがないと困るんだからね」
セレムは家に引き返すと、ギルが忘れていった角笛を持って来た。レナはセレムの手から乱暴に角笛を受け取る。
「もしギルがまた遊びに来ても、竜に乗るんじゃないよ。竜に乗っていいのは竜使いだけなんだから」
「……」
レナはセレムを睨むと、竜の手綱を引いた。グレイの竜はグルルッと鋭くいななくと、大きな羽をバタバタ羽ばたかせた。昨日のルピィと違って気性が荒そうだ。飼い主のせいだろうか?ふとセレムが考えていると、竜とレナはあっという間に空に舞い上がっていった。