傍観主体制で
「あっつ~・・・・!!」
灼熱地獄の中、やっとの思いで学校に到着した。
教室までの長い道のりをダラダラと歩き、「1-C」と書かれた札の掛かっている教室へ入る。
中には当然誰もいないし、誰もいないのだから冷房もかかってはいない。
「どこだー、教科書」
自分の机の中を手さぐりで探すが、何か入っている気配はない。
「ロッカーかな?」
教室からの後ろに設置されているロッカー。
必要のない教科書類はすべてこの中にいれてある。
「あれ、開かない!?」
鍵を差し込み、カチャという音を確認してから引っ張ったはずなのだが、開く気配が無い。
「ちょ、こんにゃろ~・・・・」
力いっぱい引っ張るが、これまた開く気配が無い。
ギシギシ音がし、これ以上力任せに開けようとしたら壊れてしまいそうで怖い。
「どうしよ・・・」
友達に教科書を借りるか、なんて諦めモード全開の時だった。
「あれ、皆本さん?」
そこにいたのは、同じクラスの「御堂薫」。
「学園の王子様!」をまさに体現したような人物だ。
一年生ながらサッカー部のエース。
引き締まった体に、小麦色に焼けた肌。
それなのに人懐っこそうな愛らしい容姿をしているので、2・3年のお姉さま方には大変人気だ。
まぁ、一年生にもだけど・・・・。
スポーツだけでなく、勉学まで優秀、それに加えて家は代々続く名門の家柄だ。
すっごく良い物件だよね・・・・。
内心失礼なことを考えながら、いつも彼より後ろの席から眺めていた。
あまり彼自身には興味は無かったし・・・。いや少しミーハーな所もあったが、そこまで表に出るタイプでも無いので、傍観体制に入っていた。
そんな王子様がどうしてここにいるのだろう・・・・。
「御堂君・・・・?」
「皆本さん、足、太もも見えてるよ・・・。」
彼の顔が何故か赤く染まっている。
これがお姉さま方を虜にする魅惑の容姿なのだろうか・・・・。
彼の言う「見えてる」は何なんだろうか?
「ヘぇ?」
自分の体勢を思い出すと、ロッカーの取っ手に両手をかけ、左足を隣のロッカーで踏ん張らせている。
葵の白い太ももはもうあられもないほどに見えている。
これがいわゆるちらリズムかな・・・。
「あっ、ああ!ご、ごめんね!!」
急いでその体勢を崩す。
「ロッカー、開かないの?」
大げさなほど大きく首を振る。
「古いからね~、このロッカー。ちょっと貸して」
そう言って、ロッカーをガタガタと言わせると、いつのまにか扉が開いていた。
「はい、どうぞ」
それはもう爽やかな「どうぞ」だった。
「俺がやってやったんだぞ!」といったドヤ顔をすることなく、「当たり前だよ」といったような優しさを含んでの「どうぞ」だ。
「ありがと~!!」
開けてもらったロッカーの中から必要な教科書を取り出す。
「でも、何で御堂君は学校にいるの?」
「俺?俺はさ、教科書忘れちゃって」
「恥ずかしいだろ?」なんて言っている様からは、お姉さま方に人気な理由が窺がえる。
「もしかして、世界史?」
「何でわかったの!?そうなんだよ、世界史忘れたんだよ~」
「私も世界史忘れたから今日取りに来たの」
「世界史って分厚いから、持って帰る気になれなったんだよ、夏休み前の俺!」
白い歯を見せて笑う。
王子様って、こんな感じなのかな~。
「そうだよね、600グラムもあるんだから世界史の教科書って!」
「皆本さん量ったの!?」
「入学した時にね。あまりに重かったから」
御堂は大声で笑い始めた。
「ごめっ!何か、皆本さんってそんなバカみたいなことするんだって思ったらさ、」
「私だってするよ、そういうこと!」
「何か、皆本さんって気難しそうなイメージだったからさ!意外だな~」
「私って、気難しそう?」
「ちょっとね。委員長!って感じがするタイプだな~って俺は思ってた。でもさ、なんか違った!」
傍観主でいようとしたのに、このハニカミ笑顔は胸にズキュズキュくるわ・・・。
「わ、私、もう帰らないと!!」
急いで教科書を鞄にしまいこみ、早足で教室を飛び出した。