所詮はただのオンナの子
結局、謎のイケメンにはメールをしなかった。
メールアドレスを消去することもできなかったが、メールをすることもできなかった。
彼は自分からメールを送ってくることはしなかったので、昨日のことが夢のようにも思えた。
「何だったんだろ、昨日のこと・・・・」
そんなことを思いながら、今日は学校へ登校している。
携帯を片手に、人であふれた駅のホームで電車を待っているのだ。
「面倒だな、学校。」
今日葵が学校へ行かなければならない理由として一番に上げられるのは、課題に必要な教科書を学校に忘れてしまったからだろう。
そうでなければ、せっかくの夏休みを学校に行くことで使ったりはしないだろう。
傍から見たらお嬢様の様な姿をしている葵。
白いブラウスに、薄紅色のネクタイ。スカートは黒に赤のチェックが入っている。
その制服に負けぬように、年ごろの女の子らしく胸まである髪をウェーブさせ、教師にバレない程度の化粧も施してある。
葵の好きな「ゴシップガール」のブレアをイメージしているのだ。
ニューヨークを舞台に、セレブを主人公にした海外ドラマ「ゴシップガール」。
その煌びやかな世界に、葵はいつでも憧れていた。
その影響もあって、今の学校を選んだのだから。
電車の待ち時間の間に、葵の生い立ちについて話させてもらおう。
本名「皆本葵」。
貧乏だが、愛情あふれる家庭に育った、というわけではなく、父親は大手弁護士事務所を経営する社長である。母親は旧家の出に対し、夢見る少女に育たなかった現実主義だ。
それなので、家は高級住宅街にある、憧れである「ゴシップガール」のブレアとは負けず劣らずの存在である。
ここで、セレブの少女が誰もかれもが美少女とは思わないでほしい。
母親はそれなりに整った顔だが、そこまで秀でているわけでもないし、父親もしかり。
勉強に対してはさほどの関心は無く・・・・、いや、本当は関心はあるのだがそこまで頭がよろしいわけではない。
今の学校には、「名門」の看板が掛かっているので、それなり以上の頭の良さを要求されるのだが、足りない部分は「コネ」でカバーと言う金持ちの「イヤミ」を発揮した。
そのことに対しては多少罪悪感はあるのだが、周りにもそういう者はいるので、「しょうがないか。」で済ましいる。
「ここまでくると、ただの嫌みな金持ちだよねぇ。」
そうは言うが、そこまで「金持ち!」といった生活はしてはいない。
住居はまあ大きいが、いつも食べるものは母親手作りのスーパーで買った食材のご飯だ。
小遣いもさほど普通の家と変わらない。
携帯代を抜きにして、月10000円ほどなのだから。
だから、買いたいものを何でもかんでも買えるというわけではないし、「節約」という言葉を身をもって何度も体験している。
友人と遊ぶのも、「今日は青山で、クラブのイベントがあるんだけど」なんて風にはいかないし、「クラブ」なんて、もっての外である。
学校の通学方法も、運転手つきの高級車ではなく、人にもみくちゃにされながらの命がけの電車通学である。
「こう考えると、ただの一般ピーポーじゃない・・・。」
考えれば考えるほど、惨めになってきた。
さあ、電車が来たので「皆本葵」についてはこれぐらいで。