暑い夏
「・・・・うるさい。」
最近は蝉の鳴き声が煩わしく感じられるようになった。
毎日毎日、鳴きやがって!!
読んでいた本を閉じ、ソファーから体を上げる。
「隣の工事もうるさいし・・・・。」
最近、隣に家が建ち始めた。
長い間駐車場であった広い土地には、3軒の家が建つそうだ。
「こんにゃろー・・・!!」
近くにあったクッションで耳をふさいでみるが、気休め程度だ。
「善良な市民に対する配慮ってものはないのかね~」
「だーれーが、善良な市民よ。」
「いたっ!!新聞紙で頭叩かないでくれます~?お母さんと違って繊細なんだから。」
「どこが繊細よ、どこが!この間、あんたハエを素手で捕まえてたでしょ!」
母の手にある丸めた新聞紙で頭をつつかれる。
「ちょっ、髪の毛ぐしゃぐしゃになるから!」
「誰も見る人いないでしょ。」
母は葵をいじるのに飽きたのか、丸めた新聞紙を元に戻し、読み始めた。
「へぇ~。この子、あんたと同い年だってよ。世の中ってもんは、皮肉だねぇ。」
母が開いた先には、「超新星!矢野葵」の見出しが。
「無名の新人が、映画の主演に決まったんだってさ。綺麗な顔してるねぇ。あんたと同じ名前で、同じ年。しかも男なのに、あんたよりも綺麗な顔しているじゃない。」
「そういう子は、小さい頃から可愛い可愛い言われて、有頂天になっているようなタイプなんだから。私は綺麗に生まれてそんな風に育たなくてよかったと思ってるわよ。」
「負け惜しみを言うんじゃないよ。あんたは、可愛くない子だね~。」
「可愛くなくて結構!!お母さんから生まれたんだから可愛いはずが無いじゃないの!」
「まっ憎たらしい!!」
母が何か言っているが、そんなこともう耳に入らない。
私だって、もっと可愛く生まれたかったわよ!
鼻だってもっとスラッと高く、目だってもっとパッチリしていたら良かった!!
「私、図書館行ってくる。」
こんなうるさい家にはもう居たくはない。
静かな図書館にでも行こう。課題作文の本でも探そう。
「お~、行って来い、行って来い!あんたがいなくてこの家ももう少しは静かになるだろうね。」
そんな母の言葉を内心怒りながらも、部屋着からワンピースに着替えた。
鞄に携帯と財布を詰め込み、少しぐうぐう鳴るお腹を押さえながら、家を出た。