第7章~空想ドライブ~
時は昭和五十九年三月一日。
ザーザー振りの雨の日。
昭吾は無事、高校を卒業した。
母親と一緒に帰宅するとポストに、
桃子からの手紙がピンクの封筒で届いていた。
「卒業おめでとう。
4月からは社会人ですね。
桃子も高校二年生。
に、なれるかなぁ?
なれるように、がんばるネ。」
昭吾は、その日のうちに返事を書かなかった。
二月のアルバイト代を頭金にして、
真っ赤な軽自動車を購入、
明日、納車される。
車の写真を添えて送ろうと考えていたのだ。
桃子を迎えに行く約束。
五百マイルの距離は、
軽自動車では無理だと言える。
しかし、今の昭吾の経済事情を考えると、
普通乗用車を購入、維持していくには無理だ。
父親から、
「軽なら保証人になってやる」
と、説得されたのだ。
次の日納車された、真っ赤なクオーレ。
昭吾は、早速車の写真を撮り、
急ぎでラボに頼み、
写真を添えて返事を書いた。
「この車で桃子と、ヒミツの花園まで走りたい。
だけど、ヒミツの花園、
まだ見つけていないんだ。
早速今夜あたり、出かけてみるよ。
お楽しみに。」
昭吾は手紙を投函し、
その足で秘密の花園を散策。
海沿いのコースを車で走った。
BGMは、あらかじめ作っておいた、
オールディーズのカセットテープ。
程度の良いカーステレオが付いているので、
ご機嫌だ。
車内には、
折りたたみ式のフォトフレームが着けてある。
いつもは閉じているが、
開くと、学生時代生徒手帳に忍ばせていた、
桃子の写真がある。
いつでも、桃子とのドライブ気分になれる仕掛け。
今日投函した手紙には、
この仕掛けの写真も添えてある。
カーステレオからは、
ヴェルヴェッツの『夢のお月さま』が、
軽快に流れている。
「あー桃子と早くドライブしたい。」
昭吾の気持ちは、桃子一色だ。
だから、ヒミツの花園は、
「どんなに美しい風景でも、
助手席に桃子が居ないとダメだ。」
三月九日の夕方七時頃、
西の空に沈む三日月を眺めながら、
結論に達した。
それからしばらく経って、
桃子から手紙が届いた。
「かわいい車。
若葉マークが光っていますね。
いいなぁ…桃子も運転してみたいなぁ。
フォトフレーム…ちょっと恥ずかしいよ。
誰にも見られないようにね。
いつか、桃子が広島に行くから、
乗せてね。」
昭吾は、DJカセットを送る計画を企てた。
ラジカセの前で喋るなら、
車にラジカセを積んで、
独り言を言いながら運転する様子を録って送ろう…と。
車で、どんな曲を聴いているか?
車のエンジン音。
他愛のない問いかけ。
そして、海に着いたら波の音。
桃子が好きな曲、
『君の瞳に恋したい』を聴きながら運転するシーン。
独り言カセットは、再編集する事なく、
素晴らしい出来映えで完成した。
桃子に送ると、一週間後には返事が届いた。
「昭吾くんとドライブしているみたい。
桃子、早く広島に行きたい。
昭吾くんにどこか、連れて行ってもらいたいよー。」
空想ドライブは、成功した。
桜の花が開き始めた三月下旬の事でした。




