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Sugartownは恋の都  作者: びん せんと
31/31

さらに番外篇〜令和Rendez-Vous〜

昭吾は五五歳になった。

スローライフの準備を始めている。

すっかり釣りにのめり込み、

大物小物まで釣り上げては、

ブログに載せて"いいね"を貰い、

満足している。


たまに嫁を海に連れて行き、

嫁は嫁でインストへ風景を上げ、

"いいね"を貰っている。


夫婦すれ違いと語っているが、

仲良いじゃないか?と周りには思われているのである。


また昭吾はスクーターを購入し、

あちこちに出没している。


そんな平平凡々な日々。

他には何も求めていない、

日々が続いている。


でもスマホのicharnで、

八十年代の曲を聴くと、

ふと気になる事がある。


「桃子は今、幸せかな?」と。


今更気にしてもしょうがない。

解っちゃいるけど、

やはり気になるのだ。

東京出張毎に埼京線で、

渋谷に通ってたせいでもある。


二〇一九年。

時代は令和元年。

東京出張の度に一人渋ブラを繰り返して四度目。

渋谷もあの頃と変わり果てたと気づいた。

再開発で桃子との思い出は、

一つずつ消えて行く。

あの香り。

そこにはもう、無かった。


時は更に進み二〇二〇年。

令和二年は三月六日の金曜日。

埼京線のホームから、

空が見える出口を見つけた。


昭吾の姿はふらふらと渋谷のど真ん中にあった。

"渋谷ストリーム"て何だ?

〇九の時代の終わりを察した昭吾。

そこにもあの香りは無かった。


しかし、

その一六週間後の六月第四週にも、

昭吾は渋谷に出没している。


経営していた、"そーだぽっぷホールディングス"を円満退社。

配偶者に託し、東京五輪の厨房スタッフとして、

住込でビームサービスという会社に、

調理師として転職している。


月島の先輩が人手不足で声をかけてくれ、

柳刃包丁をバッグに忍ばせて、上京。

すっかりコックコートが似合うミドルだ。


休日を利用し、銀座線で終点渋谷まで移動。

三月に見た渋谷ストリームが気になったようで探索。


コックコートからカジュアルな、

真っ赤なボウリングシャツの容姿。

赤いコロバースのハイカットは、

高校生以来久々履いた靴。

出かける際二十代のコックにチャカされたが、

「コレが昭和の心意気よ」と説教して出て来ていたのだ。


変わり果てた渋谷と、一言で言っても、

渋谷の匂いは変わっていない。


ハチ公はそのまんま、

外国人のアイドル犬だ。

〇九はロゴを替え、

未だ道玄坂に聳える。

外国人がマリオ族と化し、

公道上で相変わらずワルさをしている。


「コレが渋谷だよー」


スクランブルに急に雨が降り出し、

吉牛横にある毎年寄る、

かつてのコンペチターのカフェで、

雨宿りする事にした。


アイスコーヒーを注文し、

誤って少し後退りしてしまった昭吾。

五〇半ばでロコモティブかい?

弾みで後ろの人の足を踏んでしまう。

しかも、同じ赤いコロバース。


「あっ、すみません。大丈夫ですか?」

「私もボーッとしていて、ごめんなさい」


背が低い女性。

顔も見ずに詫びる昭吾。

自身の悪い癖だ。


だが、相手の胸元から香る香水の匂いに、

昭吾は顔を見て、びっくりする。

身長が約…いや絶対一五三センチ、

目が大きな、熟した女性。

昭吾は、相手に呼びかけた。


「も、桃子…さん?」


「人違いだと思、ん?もしかして昭吾くん?」

「そうだよ、桃子?」


昭吾と桃子の再会は、いつも白々しさが漂う。


「おんなじ靴履いてるじゃない」

「そうだね。」

「どうして東京に?」

「五輪招集だよ」


冷めた出会いだが、

この二人の運命なのかもしれない。

渋谷で偶然が、胡散臭い程の再会だから。


桃子には連れの女性が居たが、

彼女と暫く会話した後、

昭吾のテーブルについた。


「昭吾くん、いつもここに?」

「うん、二階で毎年タバコ吸って、終電で広島に帰っていたよ」

「毎年渋谷に来ていたんだ」


桃子との渋五時は、

一九八四年の元旦以来だ。

二人は互いの家族の話や仕事の話。

気がつくと夜の七時。


「昭吾くん時間大丈夫?飲みに行かない?」

「時間は大丈夫だよ、行こう」


どう見ても60年代か70年代にオープンした奥渋の店に、

桃子は昭吾を招待した。

物静かなマスターが、

ハイボールで出迎えてくれた。


「昭吾くんがまだ浮気性な事に乾杯」

「桃子の毒ある舌好調に乾杯」


相変わらず桃子は意地悪。

だがメニューを見つめて考え込む癖は、

一七歳の頃から変わっていないところに、

愛おしさが募ってくる。


マスターに一杯ご馳走すると、店の隅に立ててあるアコギを、

弾いていいと言ってくれた。

フォークとガットのあいの子のような、

12フレットの小型ギターだ。


「昭吾くん、あのウタ歌ってよ。桃子の部屋で弾いてくれたウタ」

「いいよ、聴いて」


Dコードの変則アルペジオが、

店内に響く五〇〇マイル。


歌い終わった後、

ギターが置いてあった反対の隅に置いてある、

四角いジュークボックスを見つけた昭吾。


「マスター、これ動きますか?」

「多分、動くと思うよ」


百円で四曲再生してくれる。

昭吾がラスト一曲に選んだのは、

一六歳の桃子が昭吾に聞いて欲しいと、

カセットに吹き込んで郵送してくれたウタの原曲


You're just too good to be true

Can't take my eyes off of you

You'd be like Heaven to touch

I wanna hold you so much

At long last love has arrived

And I thank God I'm alive

You're just too good to be true

Can't take my eyes off you


Pardon the way that I stare

There's nothing else to compare

The sight of you leaves me weak

There are no words left to speak

But if you feel like I feel

Please let me know that it's real

You're just too good to be true

Can't take my eyes off you


I love you, baby, and if it's quite alright

I need you, baby, to warm a lonely night

I love you, baby, trust in me when I say:

Oh, pretty baby, don't bring me down, I pray

Oh, pretty baby, now that I found you, stay

And let me love you, baby, let me love you


You're just too good to …♪


「僕が桃子に聞いてもらいたいウタだよ」


昭吾が桃子に長年言いたくて言いそびれていた言葉を口にした。


「昭吾くんが大好きなオールディーズの、

"シェリー "の人だよね?

まだ聴いてる?オールディーズ?」

「聴いてるよ、死ぬまでロックンロールだ!」


曲が終わってお会計。

ほろ酔いの二人の影は、

とぼとぼと渋谷ストリームへ。

階段で自撮りスティックでツーショット。

"Aircandy"というスマホの機能で、

桃子のスマホに画像を送信。


二つの影を作っていた二足の赤いコロバースは、

そこで別れる。

SNSの交換なんてしなかった。

気心知れた者同士。

既婚者の二人の出会いだから、

こんなものでしょう。


結局東京五輪が二人の出会いの、

きっかけとなったのだ。


「昭吾くん、最後に聞いていい?」

「いいよ」

「毎年三月の渋谷、いつから来ていたの?」

「四年前の三月一一日、東日本大震災からちょうど五年目の日だったよ」

「えっ?桃子もその日、西合百貨店から、

〇九前の家電量販店に寄ったよ」


"恋文横丁此処にありき"

別れ間際、心の中で流れ始めた、

五〇〇マイル。


手を振りながら、心で呟く昭吾。

「あの香りは、やはり桃子だったのか?」


渋谷はやはり、

桃子と昭吾の街。

渋谷を訪れる事があれば、

二人の軌跡を探してみて下さいね。





-----完結-----

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