番外篇〜平成Rendez-Vous〜
物語が完結して一三年が経つ。
時は二〇一六年三月一一日。
あの東日本大震災からちょうど五年。
五十路を過ぎて上京した昭吾の姿が、
渋谷のスクランブル交差点にあった。
中折れ帽にスーツ姿。
大きなバッグを提げた出張帰りの昭吾。
桃子なんて居る訳ないのに。
一人ハチ公、
一人09、
一人道玄坂。
一人渋ブラは昭吾にとって二度目だ。
暦のマルの日、
桃子と一緒に行った、
原宿のフィフティーズショップは、
現在明治通り近くに移転し、
格好良く営まれていたのが嬉しい。
宮下公園の喫煙所で、
煙草をふかしながら見上げた空は、
あの日桃子と見上げた空よりも澄んでいる。
あの暑かったガード下の舗道が、
そのままの状態。
懐かし過ぎて照れくさい。
アコギ屋を出て大手家電量販店を、
過ぎた所に、
変わった碑を見つけ、
ふと立ち止まる昭吾。
「恋文横丁此処にありき」と、
記してある杭のような碑。
ふとこの文字が目に入り、
立ち止まる。
ここの恋文は、
恋文の意味が違うらしいが、
渋五時の裏手に当たる、
この場所の恋文の二文字に反応した。
昭吾の心の中で、
流れ始めた歌。
高校三年生の頃、
夕方東の空を見ながら、
ギターの弾き語りをしていた歌。
Dコードで始まる、
変形アルペジオの旋律。
知らぬ間に、
左指がDコードを描いていた。
さっき横丁の角のアコギ屋に、
入店したからだろう。
追想のクライマックス。
昭吾は恋文横丁の碑の前に立ち、
イヤホンを付けて、
携帯プレーヤーを再生し、
あの香り、
あの手の温もりを追っかけ、
心の中で呟いた。
「桃子、ただいま」
返事が帰って来る事はない。
曲が終わった頃、
また、あの香りがしたような、
まさか気のせい。
仕事の後の、追想し過ぎ疲れ。
幻覚症状なのか、
歳のせいだろうな、
と、思いながら、
昭吾は振り返る。
そこに、
瞳の大きくて小柄な、
セレブっぽい中年女性の姿が。
「も、………」
また風景が、
暫く静止画になった。
♪次の汽車が 駅に着いたら
この街を離れ 遠く
500マイルの…♪
二つの影が交わる事は無かったが、
あの瞳の正体は?
ーーーーー完ーーーーー




