エピローグ~永遠の恋人~
お正月の三が日だけ、自宅に帰った昭吾。
元旦の夜、新年挨拶を桃子と電話で交わし、
昭吾は春の上京を、桃子に誓う。
四日目の日には、勤務先まで車で戻った。
しかしその日、新しい支社長と営業課長が、
昭吾の職場まで来た。
「掛井くん、ちょっとこちらにかけたまえ。」
「はい、課長。」
重い雰囲気を察した。
「実はな、掛井くんに話しておかないとな、」
「課長、何でしょうか?」
課長と支社長は顔を合わし、
支社長が重そうに口を開きこう言う。
「掛井」
「はい、支社長。」
しばらく間があった。
「お前の頑張りにはいつも感謝している。」
「ありがとうございます。」
「実はな、この四月で東京支社を閉める事を、
年末の役員会が決定してしまったんだよ。」
力が抜けて行く昭吾。
「業績の悪化でな、
当社としては赤字続きの事業所は撤退させる方針なんだ。」
「支社長、」
「お前の転勤希望も流れてしまった。申し訳ない。」
支社長達が帰った後、雪の中一人涙を流す昭吾。
その夜、ホールの片隅にある公衆電話から、
悲しい電話をかけた。
「悔しい、悔しいよ桃子」
「そんな事情があったんだ。仕方ないね。」
「ごめん、桃子。」
「昭吾くんまた、文通しましょ?」
「うん。」
それから二か月が経ち、
菜の花が至るところに咲き始めた。
昭吾は山を降り、広島市内の職場に復帰した。
待ったはずの春とは、違った春。
しかし昭吾は、笑顔だけは忘れなかった。
初夏、広島市内ではとうかさんが始まった。
金曜日の夜、桃子に電話をかけた昭吾。
「桃子ね‥マーケティング会社に再就職したの。」
「それは良かったね、桃子。おめでとう。」
「七月からの勤務先が海外になっちゃったんだ。」
「えっ?どこの海外?」
「シンガポールよっ。」
「しっ、シンガポールって、東南アジアの?」
「そう、スキル買われちゃったんだ。」
昭吾は、何て話せばいいか暫く口を閉じた。
「また、会えるかな?オレたち?」
「昭吾くん、桃子また、会いたい。」
「桃子、元気で居てくれ、」
「昭吾くんも、手紙、書けたら書くから。」
「桃子、」
「何?」
「ずっと君を、愛してるよ。」
「私もよ、昭吾くん。」
七月。
また暑い日々が続く。
桃子からのエアメールが届いた。
新しい住所が書いてあった。
こちらから返信したが、何年待っても、
桃子からの便りは無かった。
平成二年、昭吾が怪我で入院した。
労災事故だが、入院先のナースと、
新しい恋に落ちた。
週末のわずかな時間にデイトを重ね数年後、
街はずれのチャペルでゴールインした。
妻となった女性以外に、
『永遠の恋人』と言える女性が居る昭吾。
時は流れて平成一五年の秋の事。
昭吾はフィフティーズ・カフェチェーン、
『そーだぽっぷ』の社長となっていた。
全国に加盟店を含む30店舗を広げながら、
厨房に立つ社長。
開店準備中、届いたスポーツ誌に載っていた記事。
ある選手が夕べ、野球人生を終えたと書いてある。
その妻として、桃子の名前が。
昭吾と桃子がギクシャクしていた頃、
桃子が付き合っていた大学野球部員の妻となっていたのだ。
その日から昭吾は桃子の事を、
永遠の恋人とは思うのを止めた。
「桃子、お幸せに。」
気分はすがすがしく、
長い恋が終わった一日だった。




