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Sugartownは恋の都  作者: びん せんと
27/31

第27章~春まで待ちます~

最終電車で帰宅した深夜過ぎ、

暗い部屋で電話が鳴る。桃子からだ。


「良かったぁ帰ったの?

寝過ごして九州に居るのかと心配で…」

「数日間置いてくれて、ありがとうね。

また、行くけえね。」

「昭吾くんの広島弁、聞けないの寂しいな?」

「もーちーとしたらまた電話するけえ、

いい知らせが出きるように交渉してみるけん。」


例の、東京に転勤する希望。

明日の退勤後、人事部と交渉する予定だ。


眠る前、4年前に撮ったスピード写真と、

今日撮ったスピード写真とを見比べる。


尖った頃、リーゼントにボーリングシャツを着た昭吾と、

サーファーカットで大人しげな桃子。


4年後の夏、

ポロシャツの昭吾と、

薄化粧をしたワンレングスでオフタイムファッションの桃子。


「少し落ち着いて来たのかな、オレたち?」


写真の中の桃子に話しかける。

月日は4年。

お互い、少しだけ大人になってからの再会。

よかったんじゃないかな?


次の日、土産を持参して夕方、

仕事帰りに人事部長と会う。

オフィスではなく、広島市内の居酒屋で待ち合わせ。


「すみません、遅くなりました。」


と、少し遅れ気味に着いた昭吾。


「ご苦労さま。」


と、人事部長。

あれ?もう一方の太い声。

支社長も同席されていた。


「どうもどうも…」


頭をかきながらテレを隠していると、


「掛井~っ、ここに座れ~」


支社長の太い声で座り込んだ。


「どうしたんない?掛井?」


支店長までもが聞く姿勢だ。


「ここでハッキリしておかねば…」


昭吾は心の中で悟り、

上司二人の前で、転勤希望の意志を伝えた。


「ほうか?今の職場が嫌なんじゃあないんか?」

「はい、嫌ではありません。」


人事部長と支社長は昭吾の目が踊っていないか、

睨みつけるように確かめている。

しばしの沈黙の後、二人の上司は決断を出した。


「嫌じゃあ無いんなら掛井…、」

「はあ…はいっ。」

「半年ほど辛抱せい。」


支社長はこの十月の移動で、東京支社へ転勤が決まり、

半年後には昭吾を呼ぶと言ってくれた。

支社長は昭吾の肩を叩きながら、


「お前の席は、俺が用意してやるから。心配すんな、

わかったかぁ?」

「はっ、はいっ、ありがとうございます。」

「ということで部長、東京の人事には話しておくからな、」

「わかりました、支社長。掛井くん?」

「はいっ。」


部長の眼鏡の向こうに、嫌な予感。


「半年間例の会社の研修施設に出張じゃ。」

「わかりました、部長。」

「正月以外は、山から降りて来れないぞ。」


死の宣告か?

どうやって桃子と連絡を取り合えばいいのか?

新しい悩みが生まれた。


家に帰った昭吾は、早速桃子に電話した。


「春の異動なの?」

「うん。」

「良かったあ、昭吾くんが東京に移り住むなんて。」


胸のつっかえを話す昭吾。


「実はね、来週から半年間出張なんだ。」

「えっ?どこどこ?」

「広島の山奥。郵便物が週一で届くか、

届かないかっていう場所らしいよ。」

「電話は、あるのかな?」

「行ってみないと、わかんないよ。」


テンション下がり気味な二人。


「一応住所は伝えておくからメモってね。」


何かと不自由だから、考えれば考える程落ち込んでしまう。


「電話出来たらしてね、待ってる。」

「うん、わかったよ桃子。」


それから一週間後、

昭吾は、西中国山地の山荘に就き、

孤独に近い生活が始まった。


まだ、昼間は真夏の気温。

夜も蒸し暑い八月。

翌年二月の下山まで耐えないといけない。


その間桃子とは手紙の交換はせず、

週に一度の電話で、お互いの心境を交わしていた。

春まで待つ覚悟。

施設のホールの片隅にある、一台の公衆電話だけが、

二人を繋いでいる。


山での生活に慣れた頃、季節は秋から冬。

一二月、施設周辺は銀世界だ。

近くにあるスキー場から、微かにBGMと、

楽しそうな声だけが聞こえてくる。

この時期だけは、賑々しい場所。


「もうすぐ昭吾くん、誕生日だね?

何歳になるのかな?」


週一の電話で桃子は、思い出したように話し出す。


「お、おー忘れてたよ、誕生日。

桃子もこの間、誕生日じゃったんじゃね?

おめでとう。オレは一八になるよ。」

「一八って、二三歳?でしょ?桃子より2つ上だもの。」

「そう、オレは年々歳が1つずつ減るんだよ。」

「相変わらずおバカね?

お誕生日のプレゼント、そこだと贈れないね。」

「いいよ、桃子とこうやって話せるだけで、

オレはハッピーだから。」


桃子はふと、昔話を始める。


「十六歳の誕生日、覚えてるよ。」

「十六歳?五年前の事だね。」

「そう、あの日、昭吾くんからカセットが届いたの。」

「そう、贈ったよね?何吹き込もうか考えて、」

「まだ、持ってるんだ。この間久しぶりに聴いちゃった!」


昭吾の頭の中でも『シックスティーン・キャンドルズ』

が、流れ始めた。


「あの曲がテーマで使われた映画のビデオを今、観てたの。

何か十六歳の頃、思い出しちゃった。」

「何ていうタイトルの映画なの?」

「すてきな片想いって映画。今度一緒に観ようよ。」

「うん、一緒に観ようね。」

「劇中真っ赤な車が出てくるんだ。真っ赤な車って、

昭吾くんのイメージしかわかなくて、、、」

「オレの車も、あの時のレンタカーも、赤い車だもんね?…」


電話を切った後、枕元で昭吾は考えた。

最近調子が悪い車、クオーレ。

中古で五年も乗りまわすと、そろそろ買い替え時。


楽しいひとときだった。


施設の廊下に置いてあるクリスマスツリー。

どこかの部屋から聞こえる、

テレビCMであろう賛美歌。

イブの夜は、この施設で過ごす。


ラジカセから、ストレイ・キャッツの曲、

『シックスティーン・キャンドルズ』

この曲を聴いてるだけで、桃子と繋がってると思う昭吾。

全ては春が来ないと、先に進まない。



昭吾がこんなにまで春を待つ事は過去、なかった。









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