第25章~東京Sugartown~
桃子の部屋は、吉祥寺にある、
ワンルームの賃貸マンションだ。
コンビニ袋を二つ持って、入室する昭吾。
部屋は蒸し暑く、
玄関と、一つしかない窓を全開にし、風を通す。
シャワーを浴び、コンビニで買った缶ビール。
既に二人とも成人。
堂々と、初めての乾杯。
桃子と、小さなテーブルを囲んで話す。
「桃子は、広島の修学旅行で通訳さん見かけてね、
この仕事に憧れたんだ。」
「通訳ガイドさん?」
「そう、あの仕事だったら、広島で職に就けるでしょ?」
「桃子、広島に原爆が投下された日時は何時か知ってる?」
「えー?と、わかんない。」
こんな感じで、
桃子も広島で暮らす事を考えていたようだ。
でも、昭吾は広島の平和学習の話をする。
広島の子供達は、平和について幼い頃から、
頭の中に叩き込まれる。
そんなこと、江戸っ子の桃子は知らない。
「やっぱり駄目かな?広島で職探し…」
そんなこと、真剣に考えていた桃子。
やっぱり、二人再会するべきだったと改めて思う。
嬉しくなった昭吾は桃子に、
頭の中の構想を口にした。
「桃子が、広島に来なくてもいいじゃん。」
「えー?何で?」
「オレが、東京に来ればいいじゃんか。」
「昭吾くん、仕事辞めるの?」
「辞めないよ。東京支社へ転勤だ。」
「そ、そんな事、出来るの?」
「夏休みが終わったら、人事課長に相談してみるよ。」
東京支社へ転勤した先輩の後押しもある。
きっと、うまく転勤出来るはずだ。
缶ビールでいい気持ちになった昭吾は、
ソファーで、眠りについた。
いつもと違う朝。
昭吾は、フレンチトーストを焼く匂いと、
コーヒーの香りに包まれて目覚めた。
「おはよう。」
キッチンから、桃子が呼んでいる。
「桃子、おはよう。
ごめんね、オレこのまま寝ちゃった。」
大あくびをしながら、答える昭吾。
まるで新婚気分だ。
昨日は、先輩の声で目覚めたが、
一夜にして、このような展開になるとは、
夢にも描かない出来事だ。
「ちょっと、外の空気吸ってくる。」
昭吾は、夕べの空き缶を片手にベランダで一服。
朝食を作り終えた桃子も出てくる。
「こんな景色なんだね?桃子の朝。
街が見下ろせる場所じゃん。いいなぁ?」
「殺風景でしょ?東京って?」
「ううん。オレん家の方は、超殺風景だからね。」
桃子は小さな声で、
松本ちあきの『東京シュガーベイブ』を、
歌い始めた。
桃子の歌声を聴いたの、
これが、初めてかもしれない。
聴き惚れていると、
「冷めるから早く食べようよ~。」
夢の度を超えた心境だ。
夏休みが終わるまでは、桃子の部屋で過ごす事にした。
広島へ帰るまで、あと三日。
初日は昼間、月島の先輩のアパートに、
荷物を取りに行き、鍵を返し、また桃子の部屋に。
桃子が仕事で居ないので、しばらく留守番。
夜、暗くなった頃に帰宅してくるので、
夕飯の支度をする事にした。
メニューは、広島風のお好み焼。
桃子が食べたがっていたメニューだ。
近所のスーパーで買い物。
キャベツ、もやし、葱、中華麺、豚バラ肉、
のしイカ、卵。
小麦粉に魚粉、青海苔、
これらの食材は、すんなり揃った。
しかし、肝心要なソースが売ってない。
代用品で、大阪風どろソースを購入。
甘くないソースには納得いかないが、
広島風の格好だけは、焼ける。
部屋にはホットプレートが無かったので
家電店で購入する。
夜8時過ぎ、マンション隣りの駐車場に、
ゴルフが帰って来た。
「おかえりなさい。」
「ただいま。何?パーティー?」
小さなテーブルの上いっぱいのホットプレート。
桃子はビックリ。
「さあ、焼くでぇ。」
桃子の部屋は一瞬にして、
『広島お好み村』のような香りに包まれた。
大きな、一枚のお好み焼き。
「美味しいね。」
二人で分けて食べながら、
気分良く、桃子は言った。
「明日、休みだよ。海に行かない?」
「うん、だけど、海パン無いなぁ。」
「角のコンビニに売ってたよ。」
「そっか?よっしゃ、行こう。」
本当に、新婚気分な二人。
昭吾の夏休み終了まで、あと二日。
昭吾自身、まだ胸のつかえがある。
二人を引き裂こうとした、お母さんの存在だ。
桃子と再会して未だ、お母さんの話は出して来ない。
「桃子、無理してんじゃないかな?」




