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Sugartownは恋の都  作者: びん せんと
24/31

第24章~青春の忘れ物~

「も、桃子…」

「昭吾くん?昭吾くん…。」


昼下がり、真夏の交差点の、

予期せぬ出会い。



一瞬時が、止まった。




と言っても、実際止まった訳ではない。

歩行者信号は、既に赤。

車のクラクションで現実に帰る事になる。

歩道へ戻る昭吾。

連れの黒人に頭を下げる桃子。


「東京へ来たの?」

「うん、元気だった?」

「うん、昭吾くん、どうして渋谷に?」

「忘れ物を取りに寄ったんだよ。」

「忘れ物?時計?財布?」

「それよりも、大きなもんかな?」

「で、昭吾くん、いつ帰るの?」

「明日だよ。」


桃子は、黒人にもう一度話しかけた。


誰だろう?この人?


「ごめんね昭吾くん、今、仕事中なの。

通訳の派遣会社に勤めてるんだけど、

夜七時には、事務所に戻ってるから、

ここに電話してくれる?」


桃子は名刺を、昭吾に差し出す。


「わかった、電話するよ。」

「じゃ。」

「またね。」


一分強の、束の間の再会。

あの、横浜での別れから三年経ったが、

昭吾の胸中はなぜか、せつなさが残る。

本当は、嬉しいはずなのに。


道玄坂のコーヒーショップで、

有線放送から、どこかで聴いた事がある曲に、

せつない日本語の歌詞が乗せられたロッカバラードが、

聞こえて来る。

誰かのリクエストなのだろうか?


♪~サヨナラ言って 諦めさせて

今更 愛してると


今電話で あの時のように

あの店で 待ち合わせ


WOW 無駄な事とWOW

YEAY 僕は知ってる


甘く せつない

ランデヴー~♪



何て曲なのかはわからないが、

こんな胸中でこんな歌聞くと、頭から離れなくなる。


あの夏。

桃子と初めて会ったあの日、

ロカビリーショップへ行った。

まだあの店、あるのだろうか?


原宿まで歩いてみたが、どこかへ移転したのか?

シャッターが降りていた。


胸の中の振り子が、あの時のように甦る。


夕暮れ時、先輩のアパートへ帰ろうか?

それとも…。

有楽町で一人、迷っている昭吾。

夜七時、公衆電話の前。

電話をしようとしている自分が、

なんとなく、悔しいような気持ちもある。


「偶然とはいえ、このまま電話してもいいのか?」

「いや、偶然が物語っている。電話すべきだ。」


決心し、桃子の会社に電話を入れる。


「昭吾くん今、どこに居るの?」

「有楽町だよ。」

「今、六本木のオフィスに居るから、

八時にはそちらに行けると思うの。

マリオンの入口で待っててくれる?」

「うん、待ってる。」

「じゃあね。」


昼間あの、コーヒーショップで耳にした歌が、

頭の中で流れ始めた。


甘く せつない、ランデヴー♪


ネオンが明るい界隈。

仕事帰りのサラリーマンが、

昭吾の前を行き交う。

そんな時、昭吾の前に、一台の車が停まり、

ヨーロピアンなクラクションが響く、外車。

時計は八時前。


「昭吾く~ん。」


車から桃子が呼んでいる。


「今行くから、」



甘く せつない、ランデヴー♪



昭吾は桃子の車に乗る。

二人を乗せた車は、都心方面に消えて行った。


昭吾は言う。


「何か、信じられないな。」

「そうね、渋谷で偶然は、ね?」


桃子の愛車、ワーゲンゴルフは、

246号沿いのファミレスに入る。


「お腹すいたぁ昭吾くんは?」

「オレも。腹ペコ青虫くんだ。」

「相変わらず面白いね、昭吾くん。」


テーブルを挟んで二人、向かい合わせ。

何年ぶりだろう?

前は高校生だった桃子。

今は、薄化粧した社会人だ。

サーファーカットは、ワンレングスに。

学生服は、ボディコン手前のスーツに。

少し色っぽい桃子。

ただ、使っている香りだけは変えていない。

だから昭吾も、渋谷のスクランブルでも桃子に気づいたのだ。


「昭吾くん、何にする?」


メニューを見つめて考え込む桃子。

あの頃から、治っていない。


オーダーを通して、暫く間があった。

何て話したらいいか、わからない昭吾。


「昭吾くん、あの時はごめんなさい。」


桃子は、申し訳なさそうに言う。

何て答えていいかわからない昭吾に、


「幼かったな、私。

親の考えるがままに過ごしてた。

自分っていう物を、持っていなかった。

そんな私だったから、昭吾くんに辛い思いをさせちゃった。」


昭吾は心のまま、厳しく答えた。


「いいよ、桃子、忘れよう。

オレたちはもう、終わったんだ。」


涙を浮かべる桃子。

大きな瞳は、アイシャドウが落ちて真っ黒。


「やり直せるか?オレたち。

どうやって埋めるんだ、500マイルっていう距離。

オレは今更、自信が無い。」


昭吾の傷心は、桃子が思ってたより深かった。

あれだけ恋して、愛して、振られて、

今更としか言えないほど、心はズタズタになっていた。


桃子の話を、じっくりと聞いてみた。

桃子も、心の中はズタズタのようだ。


大学に、行けたものの進学せず、

反抗期の最中、親元から飛び出して、

大好きな語学を学ぶためにアルバイトをし、

米国に渡り、生きた英会話を習得。

そして今、通訳の派遣会社に勤務している。


「お願い昭吾くん。

今夜は家に来て、桃子のそばに居て欲しいの。」


都会の追い風の中を一人暮らし。

よほど、辛い思いをしてきたのだろう。


「いいよ、桃子。これ以上泣かないで。

桃子には、オレが居るじゃないか。」


長い、長い間の蟠りは解け、

桃子の顔、昭吾の顔にも笑顔が戻った。


桃子の笑顔そのものが、

『青春の忘れ物』なのかもしれない。


渋谷のサプライズから12時間後、

昭吾は、桃子の部屋に居る。








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