第23章~ランデヴー~
自分を信じて、やった事。
後悔なんて、していない。
だから、すんなりと桃子を忘れる事が出来るはず。
月日が、忘れさせてくれる。
そう思っていた。
そう信じていた。
昭吾も新卒で入社し、はや三年。
成人になり、今年で二一歳。
資格を所得したし、
会社では、役職がついた。
毎日新しい事を覚えるばかりの日々。
その反発か?夜遊びを覚え、
お気に入りの店に、
お気に入りのお水のお姉さんが数人居たりする、
ごく普通のサラリーマン。
休日にはエレキギターを抱え、
バンド仲間とロックンローラー。
もちろんゼニにはならないアマチュアバンドだ。
おニャン子クラブが大ブレイクしているのを、
三つ下の妹が、テレビの前で真似をしている。
そんな平穏な日々を過ごしていた、
昭和六十一年三月下旬の事。
ピンク色の封筒のエアメールが、昭吾に届く。
「誰?」
差出人を見ると、どこかで見たことある英書体。
住所はメンフィス。米国。
桃子からのエアメールだ。
「何だろう?」
封筒を開けて、便箋を広げる。
桃子は今、アメリカにホームステイをしているらしい。
あと四カ月滞在中との事。
しばらく近況を知らせたいと書いてある。
「桃子は今、昭吾くんが大好きな、
ロックンロールの聖地に居ます。」
何よりも泣かせる誘い文句。
友人として、ロックンロールというキーワードは採用だ。
昭吾は桃子と、
一人の友人として、文通をする事にした。
気を使う訳ではないので、気楽に書く。
その二週間後、桃子から気楽な手紙が届く。
七月上旬の手紙を最後に、また手紙が届かなくなる。
おそらく、東京へ帰って来たのだろうか?
あの母親に、手紙を処分されてしまうので、
こちらからは手紙は出さない。
このまま、終わっても構わないし、
大学生の野球青年とは、幸せになろうが、
別れようが、昭吾には関係の無い事だ。
全く、桃子には関心がなくなっている。
もちろん、東京に帰ったと思われる桃子とは、音信不通だ。
それから季節は秋、冬、春が過ぎ、
昭和六十二年の七月。
今の昭吾の職場には、一〇連休の夏休みがある。
そのうちの五日間を東京で過ごす。
東京支社に転勤した先輩に、遊びに来るよう言われ、
計画を組み、久しぶりに上京する事になった。
宿泊先は、先輩宅のアパート。
半居候させてもらう。
アパートは、月島にある。
先輩が仕事をしている間は、東京見物。
新宿アルタに行ったり、
はとバス観光したり、
昭吾が知らない、東京らしい東京を満喫していた。
残り一日になった日、ふと渋谷に足が向く。
渋谷は、土地勘がある。
しかし、よく上京していた頃とは違い、
店舗が入れ替わっていたり、
前に宿泊したビジネスホテルも無くなっていた。
街には、ユーロビートが至る所から流れている。
山手線も新型車両になっている。
相変わらず活気のある街だ。
何度も渡ったスクランブル交差点で信号待ち。
青になって渡る。
田舎もんのように、街を見上げていたが、
人にぶつかってしまい、正面を見た。
どこかで、何かが香る。
懐かしい香りが昭吾に迫りふと、足を止める。
歩行者信号が点滅し始めた。
交差点のど真ん中、
香りの正体が、目の前にあらわれる。
隣りには、背の高いソウルメン。
街のざわめきが、止まる。
「も、桃子…」




