第21章~想い~
南東の空には、満月が輝く。
助手席にはジャージ姿の桃子。
誰も、邪魔する事は出来ない、
ふたりの世界。
大野浦の波止に車を停め、長い口づけ。
本当の愛を確かめ合う。
以前、桃子と手紙でやりとりした、
『ヒミツの花園』のような中、
今夜限りになってしまいそうな不安と、
このまま連れ去りたい野心が交差する昭吾。
車から降りる。
桃子に革のジャンパーを着せ、
北の空を見上げる。
「カシオペア、見えるよ。」
「ホントだ。綺麗ね。」
桃子が、江ノ島の時のように、
ソワソワし始めた。
昭吾までソワソワ。
桃子が、今の心境を語り始めた。
「お母さんが今度は、
お客さんを紹介するって言ってるの。」
昭吾は、うなずくしか出来ない。
「誰?桃子も知ってる人?」
「うん。近くの大学生で、野球やってる人。」
大学生で野球人?プロ志向か?
昭吾には、馴染めないタイプだ。
「その人、桃子に気があるって、お母さんが言ってた。」
こんな事、聞くまでもないが、
「で、桃子の気持ちは、どうなの?」
「ね、昭吾くん、桃子を助けて…」
桃子は昭吾に泣きながら訴える。
だが、今の状況は昭吾が不利。
昭吾は、焦り始める。
「桃子、何もしてあげられなくて、ごめん。」
「昭吾くん…」
「桃子は、オレとは全く、別世界の人だと思う。」
「何で、何でそんな事言うの?」
「オレは、教養も取り柄もない男だからだよ。」
桃子も、昭吾も、
それぞれ違った蟠りを抱えていたのだ。
深夜十二時、
昭吾は桃子を修学旅行宿まで送り、
無言の別れをした。
一人車の中、昭吾は、
自分の気持ちとは違った意を伝えた事を悔やんだ。
次の日も、
その次の日も…。
500マイル離れていると、
こんな時には何もしてあげられない。
桃子は、どんな心境で東京に帰って行ったんだろう?
三月。季節は春。
昭吾は、転勤で県北の研修施設に住み込んだ。
休憩時間、目の前に広がる、
菜の花畑を見ながらふと、桃子を想う。
車のバックシートに積んだギターを弾き語った。
春だと言うのに私には
心のコートが脱げません
菜の花畑を吹ききる風は
あなたの窓にも届くでしょうか
今でもあなたの口笛は
ビートルズから変わりませんか
心許した郵便受けに
手紙も来なくなったから
恋も乾いた頃だから
イエスタデイでも歌いましょうか
小さなわがまま言い合って
いつしか夕日が落ちてった
今でもあなたの二階の部屋は
銀色電車が見えるでしょうか
楽しい季節の終わりには
決まって寒い風が吹きます
いつか見慣れたイニシャル入りの
手紙も来なくなったから
恋も乾いた頃だから
イエスタデイでも歌いましょうか
イエスタデイでも歌いましょうか




