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Sugartownは恋の都  作者: びん せんと
20/31

第20章~君と僕の世界~

いじけモードで広島へ帰って来た昭吾。


「最低、最悪、二度と…」


とまで思ったりと、かなりの重症。

ふさぎ込んでいる、ある夜の事、

たまたまつけていた夜十時からのテレビドラマ。

テーマ曲が、桃子への思いを募らせる事となる。


ジ・アルフィーの『星空のディスタンス』


激しい向かい風が胸の中に舞っている昭吾。

カシオペア、500マイル、会えない辛さ…

歌詞のキーワードだけを拾い集めると、

今の昭吾そのものだ。


そんな切ない曲が、突然テレビから。

神様の悪戯なのか?それとも…指令?

ディストーションの利いた泣きギターのソロが、

山手線の発車ベルを想い出させ、

空耳で聞こえて来る。


「やっぱり、桃子が好きだっ。」


この辛い現実から逃げて、桃子を忘れる事も、

帰りの新幹線の中で考えた。


それが、桃子の為だ…と。

でもそれは、汀の誓いを裏切る行為。


「気持ちは充分、確かめ合っているんだ、僕たち。」


一人夜風に当たりながら、

北の空を見上げると、

あの日桃子と一緒に見上げたカシオペア。

この時昭吾はカシオペアを、

聖なる星座と位置づけた。


今度は広島で、桃子とカシオペアを見上げたい。

そんな気持ちになっているある日の事、

桃子から手紙が届く。


内容は、ごめんなさいの言葉が多く、

桃子自身も、辛そうだ。

あの日、明美と電話したとおり、

桃子のお母さんに妨げられ、どう思ったか?等、

便箋にびっしりと書いてある。

文末に、修学旅行の宿泊先が書いてある。


「これで昭吾くんと会うの、最後かもしれない…。」


力が入っていない、一行の言葉。

昭吾は、すぐにペンを取った。


「一月二十九日の日曜日、昼の三時。

桃子と話したい。電話の前に居てくれ。」


妹に宛名書きを依頼し、投函した。


一月二十九日の三時、

日曜出勤の休憩時間の事。

桃子が出てくれと願いながら、

職場の公衆電話から電話した。


「元気だった?桃子?」

「うん…最近落ち込みっぱなしなの。

昭吾くん、ごめんなさい。私…。」

「いいか桃子、もう謝らないでくれ。

オレは、怒ってなんかいない。」

「だって…。」

「広島で話そう。な?来月にはまた会えるよ。」

「うん。」


会話が弾んでいない。

ギクシャクしている。


昭吾は、焦りながら修学旅行の事を聞きだした。

二月十六日に、宮島から平和公園に。

宿泊先は、昭吾の職場から徒歩一分の修学旅行宿、

『福万』だ。

最後に、震える声で桃子に尋ねる。


「オレたち、本当に会えなくなるの?」

「わかんないよ、桃子にも。」

「わかった。会って話そう。」

「うん。」

「二月十六日午後三時。レストハウスの前に行くよ。」

「うん、待ってるね。」


電話を切った。

本当に会えなくなるのか?

まだ高校生の桃子に尋ねる自分が、愚かだった。


期待。

そして、不安。

半月後の、桃子との出会いを、

複雑な心境で迎えなければならない。


そうこうするうちに、当日を迎えた。

二月十六日、木曜日。

天気は、雲が多いながらも晴天。

朝の気温は0度だが、

早く帰宅出来るよう、スクーターで出勤。

本川沿いを走る昭吾は、

皮のジャンパーで身を包んでいる。

信号で停まった前に建つ、

修学旅行宿を見上げる。

今夜ここに、桃子たちが泊まると考えると、

ドキドキして来た。


昭吾の昼休憩は、いつも二時半から一時間。

この日は昼食が喉を通らず。

着替えをしている時間が無いので、

白いコックコートの上に皮ジャンを着て、

平和公園へスクーターで行く。

向こう岸には、観光バスが数台停まっている。

ワクワクしながらレストハウスを目指す。


本川橋を渡ると、制服姿ばかりが自由行動。

どこに桃子が居るかさえ、わからない。

約束どおり、レストハウスの前で、

桃子に探してもらう事にした。


「昭吾く~ん。」


女子高生数人が、昭吾へ駈け寄る。


「桃子、いらっしゃい。」

「さっき着いたよ。」

「誰が桃子かわからないよ。みんな制服だから。」

「仕事中?かっこいいよ、コックさん。」

「うん、この時間は昼休憩だからね。」


桃子が、嬉しそうにスクーターをのぞき込む。


「これ、一緒だね?」

「うん、買っちゃった!」


二人が会話している間、

他の女子高生はヒソヒソ話。


「紹介するね、この子が速水響子ちゃんよ。」

「は、速見響子?聞き覚えがある名前だね。」

「そう、名前を貸してもらってる子だよ。」


女子高生数人に囲まれている昭吾を見て、

男性教員が慌てて駈け寄って来た。


「あなたは…?」

「先生、この人、私の従兄なの。」


状況をうまく掴んで、昭吾が口にした言葉。


「桃子が、いつもお世話になっています。」


先生も挨拶してくれて、どこかへ居なくなった。

その姿を見て談笑する、女子高生集団。


「今夜、宿に来てね。」

「大丈夫なの?女子高の修学旅行だろ?」

「たった今、うまくフォローしてくれたでしょ?」

「ん、まあな。」

「八時過ぎならOKよ。」

「うん、行くよ。」


桃子と、恐々しい約束を交わした。


「じゃ、仕事に戻るから。」

「どこ?昭吾くんの職場?」

「あの白いビルだよ。」

「じゃ、八時過ぎに、ね。」


果たして、会いに行けるのでしょうか?

仕事を早めに切り上げて帰宅。

自宅から車に乗り換えて、

職場の駐車場に停めた。


時間は午後八時。

宿まで歩き、門を叩いた。

修学旅行宿なので、

先生らしき男性が出てくる。

先ほどレストハウス前に駈けて来た、

桃子の担任教師。


「先ほど挨拶しました、桃子の従兄です。

面会に参りました。」

「はあ、どうも。

桃子くんからは面会届けが出ています。

こちらの部屋へどうぞ。」


部屋の中へ入ると、他の生徒も面会中。

多分、おじちゃんおばあちゃん?

面会専用の部屋のようだ。


ソファーに腰をかけて暫く待っていると、

ジャージ姿の桃子が部屋に入って来た。


あんちゃん。」


白々しい呼び方だ…。


「桃子、おさげ髪じゃん?」

「おかしいでしょ?お風呂上がりなんだ。

ね、昭吾くん、何ニヤけてるの?」

「桃子のあんちゃんが、面白可笑しくって、」

「ヤダぁ~もうっ。」


桃子は昭吾の横に座って、ささやくように話し始めた。


「昭吾くん、今日は車?」

「そうだよ。」

「ね、ドライブにつれてってよ。」


ヤバい事を真顔で話す桃子。


「この旅館の鍵、中からかけてるだけみたいよ。」

「大丈夫なのかよ?」

「他校の娘も、抜け出したって有名な宿よ。」

「そーなんだ。」

「友だちに十二時に鍵を開けてもらうから、

それまで、ね。いいでしょう?」

「オレは、構わないけど。」

「良かったぁ。前から昭吾くんの車、乗りたかったんだ。」


すごい…作戦だ。

簡単に抜け出せる宿が、この世に存在するんだ。


「じゃあ昭吾くん、九時の点呼が終わっら、作戦開始よ。」

「わかった。旅館の前はヤバいから、

ひと筋向こうに公園がある。

そこで待ってるから。」

「うん、わかった。」


昭吾も悪乗りした。


「じゃ、昭吾くん、

他の東京の人に話しかけないようにね。」

「あ~修学旅行のナンパの?まだ覚えてるの?」

「うん、多分、一生忘れない。」


昭吾は、修学旅行宿を後にし、

近くの公園の横に車を停め、

ラジオの米軍放送を聴きながら、

息を潜める。


時を待つ事、夜九時半。

ジャージ姿の桃子が、助手席側のドアを開けた。


「どーも、昭吾くん。」

「来たね、桃子。さ、行くでぇ。」


ラジオからはタイムリーに、

トミー・ジェイムス&ションデルズの、

『君と僕の世界(ふたりの世界)』が流れている。

昭吾は車を西へと走らせた。


「寒くないか?」

「うん、なんか、凄く楽しい。」


バイパスを時速100キロで走る。

修学旅行のオプションツアーか?

実はこれが昭吾と桃子の、

初めてのドライブとなったのだ。


昭吾の気持ちは、

期待と不安が入り交ざっているまま。





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