第19章~さらば、恋の都~
※この章には、未成年者が飲酒する不適切な表現があります。絶対に真似されぬよう、させないようにして下さい。
ホテルの部屋で、シャワーを浴びている時、
部屋の電話が鳴った。
「誰だろう?」
バスローブ姿のままソファーに腰をかけていると、
また電話が鳴った。
「モシモシ。」
「昭吾くん。」
「桃子、どうしたの?」
「明日、会えなくなっちゃったの。
ごめんなさい。」
「も、桃子?」
「お母さんが…実家で倒れちゃったの。
今から私、出るから…ごめんなさい。」
「も、桃子ーっ。」
「ブーブーブーブーブーブー…」
昭吾は、聞きたくなかった一言を耳にした。
受話器を握ったまま、完全に固まってしまう。
もう一度、電話が鳴った。
「モシモシ桃子?」
「昭吾くん?桃子って誰?彼女かいな?」
桃子ではなく、新幹線の女、明美だ。
「今から飲みに行かへん?」
「ごめんなさい、そんな気持ちになれなくて…」
「何かあったん?うちでえかったら話聞くでェー。」
「すみません。いいです。」
「ほな、ロビーで待ってる。降りて来てーな。」
気分が…乗らない。
が、明美について行く事にした。
「東京めっちゃ寒過ぎや。積もってるやん。凍るで。」
「…」
昭吾は、凍ったように固まっている。
「何や昭吾くん、もう凍ったんかいなぁ?」
「い、いいえ…。」
明美は、昭吾を居酒屋へ連れて入る。
馴れたようにドリンクとフードを注文する。
やっぱり大人だ。
「なぁ?何があったん?昨日の顔とちゃうで。」
「は、はい…。」
「もー会えへんとか言われたんか?」
酒の力を借りながら昭吾は、
明美に桃子の電話の事を、淡々と話し始めた。
昭吾は、まだ未成年者。
酒にはまだ、飲まれるタイプだ。
「うちは母心なんてわからへんけんど、お母さん、
桃子ちゃんを連れに帰って来たんとちゃうん?」
「そうかなぁ?」
「疑問符には、行動や。」
明美は、入口の公衆電話から、
桃子の家に、電話をかけさせた。
「ええか?お母さんが出たら、切るんやで。」
「は、はい。」
「プルルルルル、プルルルル、…」
「はい。モシモシ。」
「すいません、間違えました。」
電話を切る昭吾に、うなずく明美。
少しふらつきながら、
「お母さんが、居ました。」
「そうか、そうか、昭吾くん、よー耐えてるわ。」
アルコールが体内に回り始めた昭吾。
「明美さん、今夜は僕と、飲んで下さい。」
「そっか、そっか、お姉さんが慰めちゃる。」
昭吾はボトルを一本、注文した。
それからの事は、どんな夜を過ごしたのか、
全く覚えていない。
気がついたのが、翌朝。
黒い髪に巻かれて、ベットの上。
隣には全裸の明美が居る。
昭吾も、何も身に着けていない。
慌てて起き上がるもふらついて、頭が痛い。
「何、何なんだ…。」
部屋は衣類が散らばり、異臭がする。
床には数本、ボトルの空が転がっている。
「何があったんだ?」
ソファーで頭を抱える昭吾。
明美が目を覚ました。
毛布に包まった明美に、
「僕、何かやらかしたんですか?」
と、尋ねる。
「酔った私をこの部屋に連れて帰ってくれたわ。」
「ぼ、僕たち、全裸で…」
「私、女豹になり損ねたの。
誘ったのに、昭吾くん大いびきで寝ちゃったの。」
さらに、長い髪を手櫛しながら明美は言う。
「昭吾くん、君は凄く優しい子よ。」
「あ、明美さん。」
「諦めずに、桃子ちゃんと幸せになりなさい。」
明美がシャワーを浴びている間に、
帰るよう言われたので、
昭吾は自分の部屋に戻り、帰途の支度をした。
チェックアウトの際、ロビーを見回したが、
やはり、桃子の姿は無い。
一人雨の中、大きな鞄を蹴飛ばしながら、
傘をささずに渋谷駅まで歩く。
山手線のホームで、何台もの緑色の電車が、
出発するのを見ている。
発車のベルが、耳に焼きつく程。
「東京って何でもありなのに、
ほんとは寂しいところなんだ。」
何かを諦めかけると、そんな印象を抱いてしまう。
それが、東京ってところかもしれない。
昭吾は夕暮れ時、雨の東京駅で新幹線に乗った。
車窓から眺める景色は、
雨の雫の向こうに点るネオン。
さまざまな色彩が、昭吾を見送ってくれている。
「さよなら、桃子。」
「さよなら、君の住む街、花の東京。」




