第18章~冬の散歩道~
下北沢で電車を降りた。
桃子を家まで送る途中の事。
電車の暖房が効き過ぎていたので、
二人とも寒く、震えが止まらない。
寄り添い合って、
白い息を吐きながら、少し足早に歩いていた。
途中、身体が温ったまって来たので、
公園で一休みする。
「昭吾くん、お願いがあるの。」
「何だい?」
「桃子への手紙、女の子の名前を差出人にして欲しいの。」
桃子の話によると、
暦の○(マル)の日の翌日、
昭吾が投函した礼状を、
桃子は見ておらず、
東京駅のホームで別れてひと月以上、
昭吾と音信不通になっていたので、
少し不信感を抱いていたようだ。
「お母さんが…昭吾くんの手紙を勝手に処分しているよ。
お願い…昭吾くん。」
逃げないと誓ったばかりの昭吾。
暫く寒空を見上げて考え、決断した。
「わかった。暫くはそうする。」
「ありがとう。昭吾くん。」
「で、何て名前?」
「速水響子って書いて、いい?」
「了解。暫くは丸文字で、妹に書いて貰うよ。」
「嬉しいー。ありがとう。」
昭吾は思った。
「こんな事を頼んでまで、
こんな僕と繋がっていたいなんて…」
急に桃子が愛おしく思え、
「桃子、好きだっ。」
誰も居ない、冬の公園。
街灯が長い二つのシルエットを、一つに映し出した。
桃子の家に着いたが、
家の前のバス停でバスを待つ。
桃子が修学旅行の話をし始める。
「広島で一泊するんだ。身内だと言って面会に来て。」
「いいよ、宿泊先はどこ?」
「忘れちゃった。今度の手紙に書いておくね。」
寒空から、白い物がたくさん降りて来る。
「桃子、雪だよ。」
「ほんと、綺麗ね。」
みるみるうちに、銀色の世界が目の前に広がった。
「積もったみたい。」
「そうだね。」
バスが近づいて来た。
「じゃあ明日も九時にロビーに行くね。」
「うん。待ってるよ。」
「明日、広島に帰っちゃうんだ。」
「うん。三時過ぎの新幹線だよ。」
「寂しいなぁ…。」
「じゃ、また明日。」
「うん。」
昭吾はバスの後部座席に座り、
桃子が手を振るのを姿が見えなくなるまで見届けた。
蟠りが一つずつ、一本の強い糸になって行くような、
そんな長い、長い一日だった。




