第17章~汀の誓い~
桃子をタクシーで家まで送り、
再びホテルに帰って来たのが夜十時過ぎ。
ロビーには出迎えてくれる客人が、
「あら、おかえりー」
「明美さん、どうも。」
「昭吾くん、コーヒー飲まへん?」
「はい、飲みましょう。」
新幹線でご一緒した明美と、本日二つ目のデイト?
「昭吾くん、新幹線の中での顔とちゃうで。」
「そ、そうですか?」
「うん、何かええ事あった顔やでー。
関西人の女は勘がするどいからなぁ。」
恥ずかしそうな昭吾。
「しっかりしているようで、結構可愛いとこあるやん。」
「まだ、子供のままですから。」
昭吾を睡魔が襲って来た。
「明美さん、今日は失礼します。」
「おやすみー。」
明日の約束は朝九時、
桃子がホテルのロビーに来てくれる。
朝六時頃目覚めた昭吾。
今日のデイトの行き先を決めていない。
「どこ行こうか?」
テレビでは、晴れ着姿のお天気キャスターが、
夜には都内もしぐれるかも?と言っている。
ディズニーランドは混んでるだろうし、
桃子が好きな場所で、
どこか、二人でゆっくりと過ごせる場所。
湘南がいいと思いついた。、
早速、フロントに尋ねる。
「レンタカー会社、どこか無いですか?」
「正月だからね、空車は無いと思うよ。」
と言いながら、レンタカーマップを渡してくれた。
昭吾は近場から順番にレンタカー会社に電話し、
空車を探す。
「渋谷区内には無し。新宿か?」
電話をしても、空車は無し。
昭吾がレンタカーを諦めたところでタイムアウト。
約束の時間だ。
ロビーには、桃子の姿があった。
「明治神宮へ初詣に行こう?」
「よっし、行こう。」
天気はいいけど、かなり寒い舗道。
初詣が終わってからの事を話しながら歩く二人。
「レンタカーを借りようとしたけど、空車無くって、」
「湘南?新宿から電車出てるよ。」
「じゃ、それ乗って行こう。」
初詣は参拝する人が多く、
テレビで観るのと同じ。
二人は参拝せず、おみくじだけ買った。
「うわっ、凶だよ。桃子は?」
「小吉よ、昭吾くんは日頃の行いじゃない?」
相変わらず毒舌な桃子には、反論出来ない昭吾。
原宿から新宿へと移動し、
ロマンスカーの席を予約。
出発までの時間、構内のファーストフード店で、
軽い昼食を取った。
「湘南は、修学旅行以来だよ、竜宮城のような駅がある…」
「その駅に着くのロマンスカー、片瀬江ノ島だよ。」
「よく利用するの?ロマンスカー?」
「最近は乗らなくなったなぁ。海水浴に行く電車なんだ。」
赤いボディの列車に乗り込んだら、走り出した。
「この駅、よく利用するの。ここから先は、わかんないけど。」
桃子のガイドも束の間。
江ノ島に到着した。
サザエの壺焼きが香る中、
海が香る方へ二人歩く。
潮風が冷たく、二人の間を通り抜けて行く。
暫くテトラポットの上で、二人じゃれ合っていたが、
急に桃子が無口になった。
その顔からは笑顔が消えている。
「桃子、どうしたの?」
「あのー、あのね、昭吾くん。」
「嫌われちゃったのかな?
何か要らない事、言ったのかな?」
心の中で焦る昭吾に桃子は、話し始めた。
「昭吾くんの事が好きだから、話しておきたいの。」
「何?」
「実は、お母さんが昭吾くんの事を、
あまり良く思ってないの。」
「そ、そうなんだ。」
あーあ、夏にお会いした時、印象悪かったんだ。
そんな事を話す桃子はまだ、高校二年生。
何を話して来ても堪えようと、昭吾は思った。
「桃子…どうすればいいかわかんないよー。」
桃子が泣き始めた。
聞かされた昭吾も、内心普通じゃなかった。
ここは昭吾も二つ大人。
震える身体をグッと堪えて、
桃子に語り始めた。
「何を迷ってるの?桃子。
僕たちは、お母さんの反対だけで、終わってしまうの?」
「そんなのイヤ。桃子、昭吾くんが好きなんだもん。」
答えは出た。
でも、何て話してあげればいいか、
震える身体を堪えながら桃子を抱き寄せ、
言葉を選んでいる昭吾。
「昭吾くん。桃子を広島に連れて行って。」
「何言うんだ桃子。」
「私を好きなんでしょ?昭吾くん。」
「好きだよ、好きだから、来たんだよ。」
「じゃあ広島に連れて帰ってよ。」
正気を失った桃子。
辛いことを言われて来たんだろう。
「いいか、桃子。」
「何?」
「オレは、桃子のお母さんから逃げない。」
「何んでよー?」
「お母さんを責めれる立場じゃないんだ。」
「何も出来ないんだ、昭吾くん…」
昭吾の頭の中が、まとまった。
「お母さんがどう思っているのか、
オレは知らない事なんだ。」
話を整理しながら続けた。
「オレは、オレっていう男を、
お母さんに解ってもらわないと、
一度お会いしただけで、
嫌いと言われても腑に落ちないんだ。そうだろ?」
「う、うん。」
「お母さんにも、年に何度か挨拶する。」
「昭吾くん…。」
「今日、今からじゃあ駄目かな?」
「お母さん、実家に帰省しちゃったの。」
「オレは、お母さんから逃げない。歩み寄りたい。
桃子とは、今からなんだ。」
「わかった、昭吾くん…ありがとう。」
広島に連れて行って…そうしたい昭吾だが、
「桃子?もう一つ言っておくが、
広島に連れて行ってって、
広島には、桃子が描いている夢なんて無いぞ。」
「広島に行けば、昭吾くんと居れるもん。」
「それだけじゃ、駄目なんだ。いや駄目になるんよ。」
「駄目になるの?私たち?」
「そう、薄っぺらいよ、
そんなもんじゃないだろ?オレたちが温めてきたもんは?」
「うん。そうだね?昭吾くん…。」
桃子は、安心したのか、少し笑顔が戻って来た。
「離れててもオレたち、繋がってるじゃん。だろ?」
「昭吾くん…。」
「いつ切れもいい、赤い糸のままじゃないんだよ、
オレたちは。」
帰りの電車は準急で、横座りの座席。
疲れたのか、昭吾の肩で眠る桃子。
ティモシー・B・シュミットの、
『ソー・マッチ・イン・ラヴ』
誰かのヘッドホンから聴こえて来る。
TVCMで、良く聴く曲。
こんな歌詞だ。
「二人でいっしょに 海辺を歩くとき
星がキラキラ 頭のずーっと上で輝いているとき
とても愛し合っている 僕たち二人
だれもいない 僕と君だけ
とても愛し合っている
とても とても愛し合っている
とても愛し合っている
とても とても愛し合っている …」
すっかり暗くなった帰路。
電車は都心に向かっている。




