第16章~今宵はフォーエバー~
少し勾配がついた舗道を歩き、
09を見上げる。
この建物の下で、
桃子が待っている。いや、待っているはずだ。
時計は四時五十五分をさしている。
みんなも、渋谷で五時なのか?
待ち合わせ人と思われる人は、
三十人は、居ると思う。
「桃子…どこに居るんだろう?」
TVモニターの前、
白っぽいコートを着た女の子が、
会釈しながら右手を振っている。
「桃子~っ。」
「昭吾くん。」
人目を気にする余裕さえ無く、
感情が先走り、暫く抱き合う二人。
昭吾が、来て良かった…と、
確信した瞬間。
「どこかで身体、温めようか?」
二人は道玄坂のカフェに入り、
コーヒーを飲みながら話をする。
桃子の学校の事や、
昭吾の職場の事。
映画『フラッシュ・ダンス』の話や、
マイケルのPV、
『スリラー』の仮装シーンやダンスの話。
六時になると、店内がライトダウンされ、
店員がキャンドルを持って来た。
桃子は、洋楽の話に夢中。
相槌が下手な昭吾は、
本当に話が解っているのか?
桃子が問いただす事も。
目と目が合うと、ニコッと微笑むところや、
メニューを見つめて考え込むところ。
あの、暦の○(マル)の日と変わらない桃子が一言、
「昭吾くん、どこ泊まるの?」
「246沿いのサンシティホテルだよ。」
「ね、部屋に入れてもらってもいい?」
「うん、いいよ。行こうか?」
「うん。」
二人は繁華街とは違う方向へ歩く。
ふと、空を見上げてみる。
高架橋の下から覗き込むように見えるカシオペア座。
「東京でも星、見えるんだね?」
「正月三が日だけだよ。いつもスモッグに覆われてるもん。」
桃子は、滅多に見れないカシオペアに見とれている。
二人は、ホテルに着いた。
昭吾はチェックインを済ませ、桃子とエレベーターに乗る。
地上一五階の、シングルルーム。
普通のビジネスホテルだ。
部屋に入る。
カーテンをしていない窓からは、
首都高が見える。
桃子を宿泊先の部屋に入れた昭吾。
どうしても、桃子に確かめておきたい事がある。
有線放送のパネルを操作、
最新のポップスが、静かな部屋中に響く。
「桃子、急に君に会いたくなって来たんだ。ごめん。」
「何言ってるの?桃子も会いたかった。」
二人は狭いシングルベッドの上、
求め合っていたものをさらけ出した。
確かめておきたかった事は問うまでもなく、
今宵よ、永遠に…と、
願う二つの重なる影が、
冷たい風吹く街へ溶け込んで行く。




