第15章~渋谷で五時~
ジングルベルが鳴り響く街角。
恋人たちが肩を寄せ合って、歩く舗道。
イルミネーションが綺麗。
遅番上がりの昭吾は、
イブの夜、一人寂しく広島市内を歩きながら、
時計を気にしている。
「もうすぐ八時だ。桃子に電話しなきゃ…」
街にチャペルが鳴る。
と同時に昭吾は、
電話ボックスで百円玉を五枚入れ、
桃子に電話した。
あの日以来の会話。
受話器の呼び出し音が回数増すごとに、
昭吾は緊張した。
「モシモシ、昭吾くん?」
「桃子、お久しぶり。」
昭吾は、あれから何があったのか、
問い詰めないと決めている。
「メリークリスマスだね?」
「そうだね。昭吾くん、クリスマスプレゼント届いたよ。
ありがとう。」
「な~に、大したものじゃないけど、使ってよ。」
昭吾はバイク用のレザー手袋を送っておいたのだ。
自分が使用している物とは色違いのグローブだ。
「ね、今度いつ会えるの?お正月?」
「うん、元日に上京する。会ってくれるね?」
「うん、何時に来るの?」
「渋谷で五時。09の前で待ってて。」
「昭吾くん、09?なんか広島の人じゃないみたい…」
昭吾の意地悪が始まる。
「そうだろ?カッコイいだろ?今度は遅れんなよ。」
「やっぱり昭吾くん、怒ってたんだぁ…」
五百円がなくなり、電話が切れたので、
追加のワンコインで一言。
「桃子。」
「何?」
「好きだよ。」
「桃子も。」
「早く会いたいよ。」
「八日すれば、また会えるよ。」
「じゃ、その前に、夢の中で。」
「メリー・クリスマス。」
夏よりも少しぽっちゃりしたと言う桃子に、
また会える喜び。
舗道の恋人たちよりも幸せそうな顔で歩く昭吾。
年末三十一日まで、びっしり仕事だ。
時は、昭和五十九年の元日。
十時過ぎの新幹線に乗った。
初めてグリーン車に乗る昭吾。
窓側の、陽のあたる席。
車外は寒そうだが、いい天気だ。
お正月だからか、結構席が詰まっている。
車内販売のホワイトチョコを食べながら、
二百五十キロの流れる景色を眺めている。
隣の席は、途中まで空席だったが、
京都駅から一人、座った。
綺麗な女性だ。
「お正月だから?めっちゃ人多いやん。」
と、昭吾はその女性に話しかけられた。
「ね、一人旅なん?どこの人?」
「ひ、広島です。」
「お正月に一人で、どこ行きはるん?」
「東京です。」
「うちもやぁ。たまには、東京行きたいしなぁ。」
関西人特有なのか?誰とでも会話できる気質なのか?
「うちは明美って言うんや、あんたは?」
「僕は昭吾って言います。」
「うちは二十二歳で独り身や。あんたは?」
「僕は、十九歳です。」
「学生さんかいな?」
「いいえ、職に就いてますよ。」
昭吾は、知らない綺麗な女性と、
話をしている自分を疑っている。
「なぁ昭吾くん、彼女居るん?」
「一応、居ます。」
「一応って、何や?居てへんのか?」
何か、自分の全てを吸い取られそうな…ま、いいか。
「いいえ、東京に居ます。」
「東京に?じゃ、これからデイトかいな?」
「そうです。」
「ええなぁ、東京でデイト。ロマンチックやなぁ。」
「明美さんは、東京へは?」
「傷心旅行や。」
「傷心?」
明美さんは、誰かと別れたばかり?
ヤバかったかな?
「ウソやぁ、嘘。ちょっと気晴らしだよ。」
明美との会話で、長い旅路が和んだ。
陽が傾いた東京駅に、新幹線は到着した。
「なぁ、今夜どこ泊るん?彼女ん家?」
「いいえ、渋谷のサンシティホテルです。」
「えっ、うちと一緒やん。」
「そうなんですか?」
「昭吾くんの彼女、チェックしちゃおうかな?」
「そっ、そりゃあ…」
「冗談、冗談よ。」
「今日は楽しかったです。」
「うちもや、おおきに。」
到着ホームで、明美と別れる。
昭吾は、山手線のホームへ移動し、
緑色の車両に乗り込んだ。
渋谷へ近づくにつれ、外が暗くなっていく。
時計を見たら、四時四五分。
東京の日没は、広島よりも早い。
渋谷駅に到着。
宵闇せまるハチ公出口から、
桃子が待ってる09を目指す。
再会の時は、渋谷で五時…




