第14章~線路沿いの恋~
暦の○(マル)印の翌日、
昼過ぎに広島駅に着いた。
妹や家族へのお土産を渡し、
桃子への礼状を書いた。
翌日、早速バイク屋さんで、
桃子と同じ型のスクーターを購入。
何かと桃子と繋がっていたい昭吾。
時は昭和五十八年十月。
松本ちあきの『赤い羽根の共同募金』のポスターが、
街角に貼られた頃。
毎日のように郵便受を伺う昭吾は、
極度な不安感に陥る。
あの日から、桃子からの手紙が届かない。
もう一通、手紙をしたためる昭吾。
もう、いつもの昭吾ではない。
抜け殻のように意味のない毎日。
テレビさえ見ない。
そんな生活。
自分でも嫌気がさして来た。
その頃から昭吾が、日課のように通い始めた場所。
広島駅横の愛宕踏切。
毎晩、何便か出発する、
東京行きの夜行列車を眺める。
「この列車に乗れば、桃子に会いに行ける。」
日に日に脱力感が増す。
500マイルという二人の距離に、完全に敗北している。
心許した郵便受に、今日もまた手紙が届いていない。
昭吾は、暫く弾いてなかった、
埃まみれのギターを手にした。
Fコードで始まる、ビートルズ。
『イエスタデイ』
「僕も、あの時を信じてる。」
東京駅の十番ホームに置いて来た桃子。
その髪の香り、そのぬくもり、その笑顔…
全て、置いて来た十番ホーム。
この街と同じような木枯らしが、
吹いているのだろう。
十一月になった。
スクーターも手袋無しでは走れない。
そんな頃、郵便受に、可愛い封筒が入っていた。
桃子からだ。
「なかなか返事が書けなくて、ごめんなさい。」
「文通始めて、一年だね。」
三枚の便箋にギッシリ書かれた桃子の便り。
昭吾は嬉しくて、涙が止まらない。
文末の一行に一言、
「今度、いつ来てくれるの?いつ会えるの?」
昭吾は、次の上京の計画をたてる事にした。
上京の日が、はっきりするまでは、桃子に話すまいと、
仕事帰りに旅行会社へ寄る毎日。
抜け殻のような昭吾は消えていたが、
毎晩夜行列車を眺めに行く日課は、欠かさない。
十二月、街はジングルベルが流れている頃、
桃子に手紙を送った昭吾。
正月休みに、泊まりがけで上京すると書いた手紙。
「イブの夜、八時に電話します。」
年の瀬、慌ただしい中、
昭吾の部屋のステレオから、
ビリー・ジョエルの新譜、
『ロンゲスト・タイム』が、繰り返し流れている。
ただ、気になっている事は、桃子からの手紙。
以前のように熱い内容の手紙ではなかった事。
思いつきの直感だが、
邪魔者の予感がする昭吾。
「一体、誰なんだろう?」




