プロローグ~500マイル離れて~
昭和五十七年、秋、夕暮れ時。
窓にもたれてギターを弾いている少年。
PMMの、『500マイル離れても』
英語の歌詞の意味さえ知らないのに、
すっかり暗くなってしまった東の空を見上げて、
500マイル離れた、あの子に届きますように…と。
この物語の主人公の名前は、掛井昭吾。
広島の海辺の田舎町に住んでいる、高校三年生。
趣味は音楽鑑賞とギター。
オールディーズのレコードコレクター。
そ、それと…、
部屋中の壁を埋め尽くすポスター。
アイドル歌手、松本ちあきちゃんの大ファンだ。
一時はちあきが、世界で一番好きだった。
だけど、今は違う。
今は東京に住んでいる、ちあきと同い年の、
桃子って女の子に恋してしまった。
桃子とは、ペンフレンド。
都内に住む、高校一年生だ。
筆無精な昭吾がペンを取ったのが、
松本ちあきファンクラブの会報。
コミュニティーのコーナーに、
「文通しませんか?」
と載せてもらう事だった。
「僕も、ちあきのような彼女が欲しい」。
そんな気持ちからだった。
秋風に乗って、十通以上の手紙が届いたが、
桃子ちゃんの手紙だけは好印象で、
ずっと続けたいと思ったから。
「お兄さんが欲しくって…」
一行の丸文字に、昭吾はやられてしまったのだ。
週に一通届く、桃子からの手紙。
晩秋の頃である今、
昭吾にとって桃子は、特別な存在になってしまった。
手紙書いた追伸。
小さな告白のつもりで書いてみた。
桃子の返事を待ちながら、今日もギター抱えて弾く、
『♪If you miss the train I'm on
You will know that I am gone…』




