ノビと従魔のリョコ
「貴様たち何か、質問はあるか? ある者は個別で聞く」
「先生ーーこごの詠唱、上手く魔法陣が作用じないんさ!」
教科書を開きながら、スタイルの良い特別講師に近づくノビ。
「それはーー貴様の訛りのせいだああああ!」
パメラの怒号とともに教室内がどっと沸いた。
新任の特別講師は美しく、言葉遣いは冷徹だが、
たまに見せる彼女の笑顔は素敵だった。
特に彼女が着るーー白衣の胸元に男子生徒の視線が集まる。
紅いキャミソールから溢れる薔薇柄の黒レースは、
揺れながらふんわりとした薔薇の香りを振り撒き、
男子とは言わず、見るもの全てを魅了していた。
彼女に一目惚れしたノビは、パメラの講義が大好きだった。
ここは『カルディア魔法学院』の教室。
壮麗で神秘的な建物が立ち並ぶ、キャンパスの中の一角。
だがーー。
ある時を境にパメラは学院を休職した。
「おい、パメラ先生って、この国の姫様らしいぞ」
「それは聞いた。休職ってことは、他の国の皇太子にでも嫁ぐのか?」
「はぁ? あんたねぇ、先生が休んだくらいで想像力膨らみすぎ!」
ヒソヒソと囁かれるパメラの噂は、学院中に広まっていった。
そんな中、パメラに一目惚れしていたノビは、彼女のいなくなった教室で、
まだ微かに残っていないかとーー薔薇の香りを虚しく探してしまう。
キーンコーンカーンコーン。
終業の鐘が鳴り、授業の全課程が終了した。
ノビは、いてもたってもいられず、教室から飛び出し、職員室へ駆け込んだ。
「あ、あの……パメラ先生の休職の理由を知りたいんさ!」
何事かと職員たちが振り向く中、
落ち着きのあるシルバーグレーの髪を撫でつける教員が口を開く。
「いきなりなんだね? パメラ先生は教授になるため、
あることにチャレンジされているのだ……いずれ戻る」
そう言ってノビの頭を優しく撫でた。
だが、それでも諦めないノビはさらに問う。
「どこにいったんさ? 遠い所?」
その言葉に、ひとりの若い女性教員が答える。
「それは、彼女の個人情報だから言えないの。ごめんね」
そう言って彼女は瞬きもせず、床にぱらっと落とした。
その小さなメモをノビは拾い上げ、女性教員に笑顔を見せた。
そして、「オラも休学するんさ!」と真剣な眼差しで彼は訴える。
休学の手続きを済ませたノビは、
学院の寮ーー自分の部屋へと一目散に駆け出した。
旅支度を整え、ノビは学院を背に一枚のメモを取り出す。
『新ダンジョン、ビヨンド村に出現』
そのメモを見ながら、ノビはポツリと零す。
「久しぶりの帰郷だな、オラも今じゃ、B級冒険者の端くれ、
攻略してみたいんさ!」
そう言いながら、カルディアの街並みを歩いて行った。
馬車が並ぶ停車場に辿り着くと、
【メデルザード王国『コンラッド』行き】の立て看板を見つける。
だが、彼は慎重で臆病な性格。中々声をかけづらかった。
そんな中、気づいた青年がノビに投げた。
「乗っていくかい? コンラッドまでは約1週間、かかるよ」
そう言って日焼けした顔に白い歯を見せた。
馬車に揺られながら、旅を続けるノビ。
森の中を走る馬車はある日、ゴブリンの群れに襲われた。
悲鳴を上げ恐れ慄きながら馬車から逃げる乗客たちをーー
「ウキャキャ」とまるで喜ぶように無惨にも殺すゴブリンたち。
「あんたは逃げないのか?」
日焼けした御者の青年は、
どこか落ち着いた雰囲気で、逃げもせず漏らす。
「ここで殺されるわけにはーーいかないんさ」
つぶやくノビの膝は、皮肉なほどにガクガクと震えていた。
目の前で飛び散る鮮血、耳を貫く悲鳴。
臆病な彼を支配する本能は「逃げろ」と叫んでいる。
だが、懐にある一枚のメモーー
憧れのパメラが残したかもしれない手がかりが、
彼の折れそうな心を辛うじて繋ぎ止めていた。
「……出でよ、風。オラの足ば、もっと速く……してけろ!」
それは、パメラが鼻で笑ったあの独特の訛りを孕んだ詠唱。
ーーその瞬間、彼の周囲に漂う大気が不自然に歪み、
濁りのないエメラルドグリーンの光が、ノビを包み込んだ。
それは、洗練された魔導士が使う【風の加護】とは異なる。
言葉の響きが魔法陣を歪ませ、結果ーー
本来の術理を超えた荒々しい「指向性」を持つ、
変異魔法へと昇華されていたのだ。
「ぎぎっ!?」
棍棒を振り上げたゴブリンが、目の前の少年の”変貌”にたじろぐ。
ノビは、震える脚を無理やり地面に叩きつけた。
「うおおおぉぉーーっ!」
恐怖をかき消すような叫びとともに地を蹴る。
緑の光を曳いたその跳躍は、もはや人間のものではなかった。
弾丸のような速度で、ノビの左脚がゴブリンの顎を捉え、
鈍い音とともにその体を宙へ撥ね飛ばす。
キィィィィン!
背後から迫る凶刃を、金属音が弾き飛ばした。
「……いい脚だ。その訛り、
ただの癖じゃなくて『精霊の旋律』に、直接響いているみたいだね」
タガーを鮮やかに回しながら、日焼けした青年がノビの隣に並ぶ。
ノビの肩は激しく上下し、冷や汗が頬に伝う。
それでも、緑の光を帯びた彼の眼光は、
獲物を狙う野獣のように鋭く閃いていた。
「……死にたくねぇのは、みんな同じなんさ。だから、オラが蹴散らす!」
臆病者の少年が、一人の『B級冒険者』としての誇りをーー
選び取った瞬間だった。
死に物狂いで戦った末、ノビと青年はゴブリンたちを倒した。
「これ、持っていきな。ギルドに持ち込めば金になる」
そう言って、削ぎ落としたゴブリンの耳を半分寄越す青年。
「あんた、もしかして冒険者?」
ノビの問いに、青年はふっと苦笑いを浮かべるだけだった。
落ち着きを取り戻した二人は、再び馬車に乗り込む。
だがこの時、誰もいない馬車に小さく「チュン」と鳴く声がした。
「ん? なんだべ?」
ノビは持ち主のいなくなった荷物の中に、鳥籠を見つけた。
中には小刻みに震え、茶色の羽を小さく畳む鳥が一羽。
「まだ、生まれたばっかりだな。
そいつは、従魔にもなるルナティック・フィンチ(月光の小鳥)だ。
『アイテムボックス』の中でも生きていられるし、眠りにつく。
名付けすれば勝手に出てくるしな。飼ってやれば?」
日焼けした青年は、ぶっきらぼうに言葉を並べた。
その言葉にノビは、鳥籠を優しく持ち上げながら零す。
「おめえ、オラと一緒に旅するか?」
「チュン」
「したっけ……名前はリョコにするんさ!」
ノビの言葉はまるでリョコの身体を包み込むような金色の光に変えた。
これが後にノビの従魔になるリョコとの出会いだった。
(*籠の中のリョコ)
───────────────
【ノビ・フロッグ・ケロッグ】
パーティ『リリゴパノア』の防御担当の『大盾』兼『調理師』。
冒険者ランク『B級』 19歳。
『アドリア公国』ハルツーム領、ビヨンド村では一番人気のパン屋の息子。
妹が一人いる。
希少な種族ーー『フロッグマン』との混血。
パン修行のため、カルディア魔法学院に入っていた。
新任特別講師のパメラに好意を寄せる。
臆病で訛りも酷い田舎の青年。
「したっけ」が口癖。
カエル語も堪能。 一人称はオラ。
ゴクトーたちと出会いリリゴパノアとしてダンジョンに挑むがーー
実力が伴わず途中退場させられる。
ーーだが、フロッグマンの血が受け継がれた彼は、特有の跳躍力と、
まだ自覚のない隠れた力を持っている。
類希なアイデアと、料理の腕前で仲間たちからも認められる。
ド派手なカエルの様な緑色の装備を好む。
パメラに怒鳴られ叱られようがーー
往復ビンタを受けようがーーケロッとした『恒例行事』を特技とする。
金髪で割と背が低い。
【リョコ】
種族: ルナティック・フィンチ(月光の小鳥)
ノビの従魔となる。
特技:『 アイテムボックス』への出入り、魔力感知。
ノビの精神安定剤と言われるようになる。
*別編SSでノビの願いに奮起するリョコのイラストはこちら。
お読みいただき、ありがとうございます。
引き続き読んでいただければ嬉しいです(๑╹ω╹๑ )
ブックマークの追加や、
★をつけていただくとさらに喜びます☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆




