恋と音楽 afterstory
桃谷先輩と僕は晴れて恋人同士となった。
「桃谷せんぱーい!」
「何?どうしたの流歌。」
「懐かしの呼び方してみたくなって、」
「みんなの前ではちゃんと敬語使うんだよ?後輩チャンズが真似したら統制取れなくなっちゃうからねー」
「はーい」
桃谷先輩、、美玲は名前の通り美しい brillante よく似合う音楽用語だ。
こんな言葉を生み出した人は天才じゃないかと思う。
brillante:華やかに、輝かしく
皇流歌君、、流歌と晴れて付き合うことになった。
かわいいなぁと思いながら毎日眺める。
喜怒哀楽がわかりにくいあの子は表情が豊かだと思う。
何でかって?表情には出さないけれど心の内で思っていることが
私には見え透いているから。
espressivo:表情豊かに
内面的な感情を表現する、という意味。
付き合うまではわからなかったあの子のこと、
今では誰よりもわかる自信がある。
もっと知りたい、もっと近づきたい。
そんな思いを素直に伝えられたらいいのにな。
schiettamente:素直に、装飾しないで
7月下旬、吹奏楽コンクール地区大会 が行われる。
4月、
「美玲、コンクールソロどうするの?」
と、先輩に聞いてみる。
「そんなの決まってるじゃん。勝ちに行く。
オーディションに怖気ずくとか有り得ないでしょ。」
流石だと思う。
こんなにあっさり、『勝ちに行く』と言える
彼女の勝負強さや情熱が、
とてもかっこいい。
憧れる。
付き合う前と変わらない。
華やかさや輝かしさ、それに上品さを兼ね備える
彼女が、とても美しく見えた。
risoluto:決然と、きっぱりと
appassionato:情熱的に、激情的に
ソロオーディションは5月に行われた。
部員の公正な投票で行われるのだが、
美玲は、圧勝だった。
そのソロは一本の楽器で奏でられているとは思えないほどの
壮大さ、堂々とした態度で、
最後のお辞儀すらも丁寧だった。
部長の威厳というものだろうか。
彼女にかなうものはいないのではないだろうか。
そんな風に思う。
grandioso:壮大に、堂々と
5月にソロオーディションがあった。
結果は私の圧勝だった。
『勝ちに行く。』
そんな堂々としたことを彼に伝えてしまったからには
絶対に取りに行かなければならないと思っていた。
コンクール、全国金賞を目指して頑張って行きたい。
7月下旬、地区大会、ゴールド金賞、県大会代表として出場。
8月中旬、県大会、ゴールド金賞、関西大会出場。
9月上旬、関西大会、ゴールド金賞、全国大会出場が決定した。
順調に進んでいた。みんな努力していた。
私もずっと努力している。
恋=音楽
それは以前と変わらない。
私の音楽は恋、私の恋は音楽だ。
全国金賞をとってこそ、私の恋は音楽だと証明される。
私の実力が証明される。
10月上旬に行われた日本吹奏楽コンクール全国大会は
惜しくも、
銀賞だった。
美玲は崩れ落ちるほど泣いていた。
あんなに泣いている彼女は初めて見た。
慰めるにもかける言葉が見つからなかった。
コンクール、銀賞だった。
どれだけ努力しても頂点は程遠いと実感した。
流歌にも迷惑かけた。
「桃谷先輩、水、要りますか?」
「うん、ありがとう。」
部活中だから敬語だった。
その奥にも彼のやさしさがにじみ出ていた。
中学3年の10月、私は世界の壮大さを思い知る。
grandioso:壮大に、堂々と
11月の文化祭で美玲は引退、
3年は部活を去っていった。
次の部長は僕らしい。
「部長?!俺が?!」
「頑張ってくださいね。皇さん。」
顧問にそう言われたときはとても驚いた。
先輩方に恥じぬよう、
美玲のくれた熱が冷めぬよう、
僕が引っ張っていく。
私の音楽は恋。
僕の恋は音楽。
私は
僕は
音楽が大好きだ。
部活が大好き。
そんな君が、大好きだ。
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