【8話】改めて自己紹介
レオン様とお月見をした、その翌日。
朝食を摂るために食堂に入った私を迎えたのは、「おはよう」という朝の挨拶。
それを言ったのは、食卓テーブルについているレオン様だった。
この一年、レオン様とは毎日朝食を共にしてきたが、挨拶をされたのがこれが初めて。
戸惑う気持ちはあるけども、やっぱり嬉しい。
「おはようございます!」
感じている気持ちそのままに、元気に挨拶を返す。
「お、おう」
レオン様は照れているのか、目線をあちらこちらに動かしている。
あたふたしている姿は可愛らしくて、見ているだけ癒される。
朝から元気を補充できたわ。
微笑ましい気持ちのまま、レオン様の対面に座る。
雰囲気が変わったわね。
これまでのレオン様は、常に不機嫌で嫌悪感マックス。
見えない壁でもあるかのように、私のことを絶対的に拒絶していた。
でも今はその雰囲気がなくなっている。
代わりに、大きな緊張感を放っていた。
【やっぱり父上の教えに逆らうのは怖い……でも、逃げちゃダメだ! オリビアの気持ちに応えるんだ!】
レオン様は自分を変えようとしている。
昨夜一緒にお月見したことが、何らかの影響を与えたのだろう。
私との距離を縮めようと、レオン様は頑張っているのね。それなら私だって頑張らないと!!
膝の上に乗せた拳をギュッと握り、朗らかな笑みを口元に浮かべる。
「改めて自己紹介しませんか?」
きょとんとするレオン様に、私は話を続ける。
「思えば私たち、お互いのことをほとんど知らないと思いまして」
「……言われてみればそうかもしれないな」
「ではまず私から。私はオリビア。生家はリルテイル子爵家。好きなものはケーキです!」
ケーキだったら何個でもお腹に入る自信がある。
お菓子屋さんのケーキを全部買い占める、というのを子どもの頃からずっと夢見ているくらいに大好きな食べ物だ。
「ケーキ……そ、それなら今度一緒に王都へ行こう」
「王都ですか?」
「あぁ。この前仕事で行ったとき、美味しいお菓子屋がオープンしたという話を聞いたんだ。ケーキが好きなら楽しめるだろうと思ったのだが――」
「ぜひ!!」
美味しいケーキを食べられるなんて、最強で最高な提案だ。
テーブルに手をついた私はグイっと身を乗り出し、キラキラの瞳をレオン様に向けた。
レオン様はパチパチと瞬きしている。
私の勢いに圧倒されたのか、ひたすらに困惑している様子だった。
「あ、ごめんなさい……!」
やってしまったわ……!!
テンションが上がりすぎたせいで、つい変な行動を取ってしまった。
イスに座り直した私は、頬を少し染めながら反省する。
「……えっと、次は俺の番だな」
背筋をピンと伸ばしたレオン様は、緊張している表情でゆっくり口を開くいた。
「俺はレオン。五年前からキードルフ家の当主になった。好きなものはオリビ――」
レオン様がバッと目線を伏せてしまった。
頬を赤くして、肩を小さく震わせている。
【本人の目の前で、そんなこと言えないよ!】
そういうことね。まったく、レオン様ったら。
またまた可愛いところを見てしまった。
ニヤニヤしそうになってしまうが、ここで笑えば不自然。必死になって我慢する。