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【4話】レオン様とお茶


 邸内に戻ってきた私は、キッチンへと向かった。

 シェフの一人に、少しいいかしら、と話しかける。

 

「紅茶を飲みたいから、ティーセットを用意して欲しいの」

「カップはおひとつでよろしいでしょうか?」

「二つお願い」

「かしこまりました。すぐにご用意いたします」


 少しして、ティーセットの準備が終わる。

 

「どちらまでお運びすればよろしいでしょうか?」

「いいえ、ここまででいいわ。ありがとうね」

 

 ティーセットの乗ったトレイを持った私は、キッチンを出て行く。

 向かう先は、レオン様の部屋だ。

 

 距離を縮めるためには、コミュニケーションを取ることが大事。

 そう考えた私は、まずは一緒にお茶をしようと思い立った。

 

「オリビアです。入ってもよろしいでしょうか」


 レオン様の部屋に着いた私は、ドア越しに声をかけた。

 しかし、返事がない。

 

 そのまま一分ほどの時間が過ぎる。

 

 聞こえなかったのかしら……。

 

 もう一度声をかけようとした、そのとき。

 バタン! という大きな音とともに、ドアが勢いよく開いた。

 

「な、なんの用だ!?」


 慌てた口調のレオン様は、激しく息を切らしている。

 額には玉のような汗がいくつも浮かんでいた。

 

 いったいどうしちゃったの!?

 

 尋常とは思えない。

 心配になった私は、レオン様の心を覗いてみる。

 

【オリビアが訪ねてくるのは初めてだ! 嬉しいけど心の準備が……どうしよう!!】


 レオン様の慌てようは、心の準備ができていないからだった。

 

 そういうことだったのね……。びっくりしたわ。

 

 病気とかじゃなくて良かった。

 尋常でない理由に安堵した私は、「良い時間ですし、一緒に紅茶を飲みませんか?」と誘ってみる。

 

 現在の時刻は午後三時。

 お茶を飲むにはもってこいの、ちょうどいい時間となっている。


「お茶などするものか。くだらん」

【オリビアが俺とお茶を!? やったー!!】

「暇な貴様と違って俺は仕事で忙しいんだ。とっとと立ち去れ」

【疲れたし、ちょうど休憩したいと思ってたんだよね! オリビアは気が利くな】


 こうもちぐはぐだと混乱してくるわね……。っていうか、キャラ違いすぎじゃない?

 

 ともかく、レオン様がお茶を楽しみにしていることは分かった。

 そうなれば、あとは行動あるのみだ。

 

「そう言わずに。ほんの少しだけでいいですから」

「くどい。俺は帰れと――」

「失礼します」


 入室許可を受けることなく、私は部屋に入った。

 

 おい! 、というレオン様の声が聞こえるが無視。

 部屋の中央にあるテーブルの上にトレイを乗せ、イスへ腰を下ろす。

 

「五分です。五分したら出て行きますから」

「なんて身勝手な女だ……!」


 舌打ちをしたレオン様は、私の対面の席にドカッとかけた。

 すこぶる不機嫌な顔をしているが、心の声は大きく喜んでいる。

 

「ありがとうございます」

「礼を言うとは……気色の悪い女め」


 罵声を浴びせられたが、本心ではないと知っている私はまったくもって気にしない。

 紅茶の入っているポットを手に取り、二つのカップに紅茶を注いだ。

 

「どうぞ」


 カップの一つをレオン様の前に置く。

 

 フン、と鼻を鳴らしたレオン様はぶっきらぼうにカップを手に取ると、紅茶を口へと運んだ

 

 それに合わせて、私も紅茶をいただく。

 

「美味しいですね」

「言うほどか?」

【美味しい! きっとオリビアと一緒だからだ!】


 実際の声と違って、心の声は実にはっちゃけている。

 それがおかしくてつい吹き出してしまいそうになるも、なんとか私は我慢した。

 

「お仕事、いっぱいあるんですね」


 執務机の上には、大量の書類が積み重なっていた。

 仕事量の多さが見て取れる。

 

「お疲れ様です」

「……くだらん世辞などいらない。これくらいの仕事量、侯爵家の当主ともなれば当然だ」

「レオン様はたくましいですね」


 思ったことを言ってみたとたん、レオン様の頬がバーッと真っ赤に色づいていく。

 

【やった! オリビアに褒めてもらえたぞ!!】


「べ、別に労いの言葉など求めていない。変なことを口走るな」


 慌てて突き放すようなことを言うも、口元はわずかにニヤついている。

 嬉しい気持ちを完全には隠しきれていなかった。

 

 少しは仲良くなれた気がするわ。

 

 わずかではあるが、レオン様の気持ちを外に出すことができた。

 まずまずのスタートを切れたと言える。

 

「五分経ちましたね。それでは私はこれで、失礼いたします」

「……ふん、やっと終わったか。とっとと出て行け」

【え……もう終わりなの。もう少し話したかったな……】

「レオン様。また一緒にお茶をしましょうね」


 そう言うと、レオン様は一瞬だけ嬉しそうな顔になった。

 

 まずまずのスタート……でも、こんなんじゃ足りないわ。まだまだよ。

 

 本心を偽ることなく、常にこの笑顔でいられるようにするのが私の目的だ。

 ゴールまではかなり長そうだが、絶対にやり遂げてみせる。

 

 今一度覚悟を胸に抱き、レオン様に背を向けた。

読んでいただきありがとうございます!


面白い、この先どうなるんだろう……、少しでもそう思った方は、↓にある☆☆☆☆☆から評価を入れてくれると嬉しいです!

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