【20話】迎えに来てくれた人
「なんで……。どうして来たんですかレオン様……!」
馬車へ入って来たのは、もう二度と会えないと思っていた人。
私が愛してやまない世界で一番大切な人。
馬車が動き出してからというもの、レオン様がこうして来てくれることをずっと願っていた。
それは、最高の形で叶えられた。
心の底から湧き上がる溢れんばかりの気持ちを、感謝の言葉にして届けたい。
でも口にしたのは、責め立てるかのような言葉。
私はまた、自分に嘘をついた。
「こんなことがゼリオ様の耳に入ったらどうするんですか! レオン様はまた責められてしまいますよ! 傷つくあなたを、私はもう見たくない……!」
レオン様はゼリオ様に逆らうことができない。
離婚するという未来は変わらないはずだ。
こんなことをしても無意味。
それなら私はもう、レオン様に傷ついてほしくなかった。
でもレオン様は私の手をギュッと掴んだまま、放そうとしない。
それどころか、先ほどよりも掴む力が強めてきた。
「やめてください……!」
「この一週間、俺にとっては地獄のような日々だった。痛くて苦しくて、心は常に君を求めていて――。オリビアの存在がどれだけ大きいのか、それを改めて認識した。だから俺は決めたんだ」
レオン様がじっと見つめてくる。
真紅の瞳には、大きな決意と覚悟が宿っていた。
「もう何もいらない。全部捨てたっていい。俺はただ、君とずっと一緒にいたい。それがここに来た理由だ。オリビア。君の気持ちを聞かせてくれないだろうか」
まっすぐな瞳が、力強いその言葉が。
レオン様が本気であるということを、なによりも証明している。
恐怖の対象であるゼリオ様に、立ち向かっていくつもりでいるのだろう。
レオン様はもう震えていなかった。
表情は明瞭で、いっさいの迷いはない。
ゼリオ様に怯えていた一週間前の彼は、もうどこにもいなかった。
レオン様が変わったのは私のためだ。
私と一緒にいたい、そのためだけに彼は覚悟を決めてくれた。
それがどれだけ嬉しいことか。
私の気持ち――そんなものはもう決まっている。
「私も……私も同じ気持ちです! レオン様とずっと一緒にいたい!!」
嘘ばかりついてきた私は、ようやく本心を打ち明けることができた。
涙の勢いが増す。
堰を切ったように溢れて止まらない。
そんな私をレオン様は優しく抱きしめてくれた。
【もう絶対に放さない】
心にぽっかりと開いていた穴が、温かな気持ちで満たされていく。
心地よい気持ちに包まれながら、レオン様のたくましい体を強く抱きしめ返した。
しばらく抱擁してから、私とレオン様は馬車を降りた。
去っていく馬車の後ろ姿を見送りながら、
「これからどうするのですか」
と私は呟く。
「ムペード公爵令嬢との結婚を取り止めるよう、父上に伝えに行く。一緒に来てくれるか?」
「もちろんです!」
私たちはずっと一緒だ。もう絶対に離れない。
レオン様がそう言うのであれば、すぐにだって応える。




