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【2話】疑問


「……俺はもう帰る!」


 勢いよく席を立ち上がったレオン様は、出口へ向けて歩いていく。

 わざと大きな足音を立てていることからして不機嫌なのは明らか――と、昨日までの私なら思っていただろう。

 

 でも、レオン様の本心を知った今では違う。

 

 きっと恥ずかしくて出て行ったのね。心の声でもそう言っているはずだわ。

 

 目を瞑った私は、スキルを使ってレオン様の心の声に耳を澄ましてみる。

 

【うぅ……恥ずかしい。それにしても今日のオリビア、なんか様子がおかしかったな。もしかしたら体調でも崩してるのかもしれない。心配だ……あとでメイドに様子を見に行かせよう】


 やっぱり思った通り――というか、それ以上だった。

 私のことを心配までしてくれている。

 

 レオン様って優しい人だったのね。

 

 罵倒と冷たい態度しか取られてこなかったので、ずっと意地悪な人だと思っていた。

 でもそれは、外に見せている部分だけ。

 一年経ってようやく、彼の素顔が少しだけ分かったような気がした。



 昼食を終えた私は、私室へと戻ってきた。

 ベッドの縁に腰を掛け、ぼんやりと天井を見上げる。

 

 レオン様、私のことを嫌っていなかったのね……良かった。

 

 ずっと嫌われていると思っていたが、そうではなかった。

 むしろ、好意的な感情を抱いてくれていたような気がする。

 

 結婚したからには、仲良く楽しく夫婦生活を送っていきたい。

 ずっとそう思っていた私にとって、レオン様が好印象を抱いてくれているというのは嬉しい知らせだった。

 

 でも同時に、疑問もある。

 

 私に対するレオン様の接し方は、好意を抱いている人間に対してのものとは思えない。

 言動と態度が、心の声と大きく矛盾している。

 

「そうしなきゃいけない理由があるのかしら……」


 天井に向けてボソッと呟いてみる。

 けれどももちろん、答えは返ってこなかった。

 

 ドアからノック音が聞こえてきた。

 

「アンナです。入ってもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」


 部屋に入ってきたアンナは、「奥様の様子を見てくるように、と旦那様から仰せつかっております」と口にした。

 心の声で言っていた通り、私の様子を確認するために彼女をここへ寄こしたようだ。

 

「お体の調子が優れない等、何かお困りのことはありますでしょうか?」

「いえ、まったくもって問題ないわ。レオン様には、気遣ってくださりありがとうございました、って伝えておいて」

「かしこまりました」

「……そうだ。話は変わるんだけど、少しいいかしら?」


 部屋から出て行こうとするアンナを、私は引き止める。


「レオン様が私に酷い態度を取る理由、アンナは知ってる?」

「……申し訳ございません。ここに来てから日が浅いですし、分からないです」


 アンナは困り顔になっている。

 

 そんな彼女の心は、

 

【単純に旦那様から嫌われているだけなんじゃ……。でも、そんなこと言ったら奥様に失礼だよね】


 と言っていた。

 

 気遣ってくれるなんて、アンナは優しい子だわ――って、スキルを使いすぎるのも良くないわよね。

 

 一方的に心を覗かれるというのは、相手からしたら恥ずかしい限りだろう。

 むやみやたらに乱用するのは良くない。

 

 私はスキルをオフにする。

 

 目に映った人間の心の声を聞けるというこのスキル、私の意思でオンオフを切り替えることが可能となっている。

 常に他人の心の声を聞いていたら頭がおかしくなってしまいそうだし、オフにできるのはありがたかった。

 

「そうよね。変なこと聞いて悪かったわ。忘れてちょうだい」

「あ! ローエンさんに聞いてみるというのはいかがでしょうか!」


 ローエンというのは、ゼレブンタール侯爵家の執事だ。

 先々代の頃から、長きに渡ってこの家に仕えているらしい。

 

 ローエンならレオン様のことにも詳しいはず。何か知っているからもしれないわね。

 

「そうしてみるわ。ありがとう」


 アンナにお礼を言った私は、ローエンのところへ向かった。

 

 

 屋敷を出てすぐのところにある大きな庭園。

 

 そこでは、品のある老紳士が草木の剪定を行っていた。

 彼がローエンだ。

 

「こんにちは」

 

 背中越しに声をかける。

 

 ローエンは手に持っていた剪定道具を地面に置くと、私の方を向いた。

 

「これは奥様。ここに来られるとは珍しいですね」

「話があるのだけど、少しだけいいかしら? 仕事が忙しいなら出直すけど」

「問題ございません」

「ありがとう。聞きたいのはレオン様のことよ。あなたなら詳しいんじゃないかと思ってね」

「赤子の時からお世話をさせていただいておりますからね。それはもう、色々と知っております」


 ローエンの口元に、楽し気な微笑みが浮かんだ。

 孫のことを聞かれて喜んでいる――そんな風にも見える。レオン様のことを大事に思っているのが、よく伝わってくる。


「私が答えられる範囲であればなんなりとお答えしましょう」

「レオン様はどうして私を嫌っているのかしら。私にはどうしても、本心とは思えないの」

「…………どうしてそれを聞こうと思ったのですか?」


 にこにこ微笑んでいたローエンの表情が一変。

 眉間に皺をよせ、重々しい空気を放つ。

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