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【14話】好き、という気持ち


「まさか、こんなことになるとはね」


 私室のベッドで寝転がりながら、私はボソッと呟いた。

 

 湖へピクニックに行ったあの日以降、レオン様とうまく会話ができていない。

 彼と一緒の空間にいるだけで、ドキドキして恥ずかしくなってしまうのだ。

 

 これまでならそんなことはなかった。

 レオン様が私に好意的な印象を抱いてくれているのは、心の声が聞こえるようになってから知っていた。

 それでも、一緒にいたってドキドキするようなことはなかった。

 

 たぶんそれは、レオン様のことを恋愛対象として見ていなかったから。

『仲良くなりたい』という気持ちだけだったからだ。

 

 けど、今は違う。

 レオン様のことを一人の男性としてみている。

 

 とっても魅力的な、一人の男性として。

 

 この気持ちをハッキリと自覚したのは、狼に襲われそうになったところを助けてもらったときだ。

 

 知らず知らずのうちに少しづつ積み重なっていたレオン様への好意が、あの瞬間に爆発。

『仲良くなりたい』から『この人が好き』へと、気持ちが明確に切り替わった。

 

 レオン様は私のことが好き。

 私もレオン様のことが好き。

 

 つまり、私たちは両想いということになる。

 心の内に秘めているこの恋心が実る確率は、かなり高いと言えるだろう。

 

 じゃあとっとと告白すれば、という話なのだが……。

 

「……そうはいってもね」


 生まれてから十九年。私はずっと恋愛感情を抱いてこなかった。

 好きになられたことなら何回かあったが、好きになったのはレオン様が初めてだ。

 

 だから、どういった感じで告白すればいいのかよく分からない。

 時間帯は? 場所は? 話の切り出し方は? ……ありとあらゆる疑問が、頭の中をぐるぐると回っている。

 

 それにそもそもとして、めちゃくちゃ恥ずかしい。

 好きです、と告白したときの自分を想像するだけでも、顔が赤くなってしまうくらいだ。

 

 そんな状態の私がまともに告白できるなんて、到底思えなかった。

 

「どうすればいいんだろ」


 なにしろ人生初の難題。

 困り果てた私は、大きなため息を吐いた。

 

「アンナです。入ってもよろしいでしょうか」


 ドア越しにアンナの声が聞こえてきた。


 体を起こしてベッドの縁に座った私は、どうぞ、と声をかける。

 

「失礼します。……奥様、だいぶお疲れのようですね」

「ちょっと考えごとをしていてね。それで、どうしたの?」

「旦那様と奥様にお客様が見えております」


 客はファビロ公爵家の遣いで、共同出資の話を持ち掛けに来たらしい。

 

 ファビロ公爵家は、かなり大きな権力を持っている大貴族。

 国内で高い地位を持っているゼレブンタール侯爵家よりも、さらに数ランク上に位置付けされている。

 

「分かったわ。どこへ行けばいいの?」

「お客様は応接室に通しました。旦那様は既に向かっております」

「ありがとう。私もすぐに行くわ」


 立ち上がった私は、急いで部屋を出ていく。


 遣いといえど、フォビロ公爵家の人間であることには変わりない。

 丁重にもてなす必要がある。

 

 私が遅いせいで機嫌を損ねてしまった、なんてことになったら最悪だ。

 

 急げ急げ!!

 

 あたふたしながら、私は必死で足を動かしていく。

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