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【12話】レオン様とピクニック


「綺麗なところですね!」

 

 水底まで澄んだ湖を見ながらそう言うと、私の隣にいるレオン様は安堵したような表情を見せた。

 

 ここはゼレブンタール邸の近くにある、湖の湖畔。

 私とレオン様は今、ピクニックをしに来ていた。

 

 それは先週のこと。

 いつものように、レオン様と夕食を食べている時だった。

 

 

「オリビア……少しいいか?」


 レオン様がボソッと呟いた。

 顔を強張らせながら、頬を指でかいている。

 

 何か重大なことを言おうとしているのね。

 

 心の準備がいるようなことを言うときには、レオン様は頬をかく癖がある。

 彼のことをよく見ているか、最近はそういった細かい仕草まで分かるようになっていた。

 

 頑張れレオン様!

 

 せいいっぱいのエールを心の中で唱える。

 

「一緒に湖へ出かけないか。いい場所を知っているんだ」

「はい!」


 レオン様とならどこへ行っても楽しくなる。

 それを知っている私は、迷うことなく二つ返事。大喜びで首を縦に振った。


 というのが、今回のピクニックのきっかけとなっている。

 

 

 真っ青な空を眺めたレオン様が、口角をわずかに上に上げた。

 

「ここは俺のお気に入りの場所でな。嫌なことがあった時は、よくここへ来る」

「空気も澄んでいますし、リフレッシュするには最高の場所ですね」

「気に入ってくれたようで良かった。実を言うと、かなり不安だったんだ」

「私がこの場所を気に入るか、ということですか?」

「あぁ。心配で一睡もできなかった」

「そんな心配いらないのに。レオン様と一緒なら、そこがどんな場所でもあっても私は楽しいですよ」


 私に対して、ぐるんと背を向けたレオン様。

 俯かせた顔を両手で覆い、プルプルと背中を震わせている。

 

 きっと照れているのね。可愛いわ。

 

「ひ、昼にしよう。シートを広げる」

「はい。お手伝いしますね」


 頬を染めているレオン様と一緒に、地面の上にシートを広げていく。

 まだ恥ずかしいのか、作業中は私と目を合わせようとしなかった。

 

 そういうところもまた可愛いわね。

 

 敷き終わったシートの上に、私とレオン様は隣り合って座った。

 持ってきたバスケットのフタを開け、シェフが作ってくれたサンドイッチを食べる。

 

「美味しいですね!!」

「あぁ、うまいな。…………オリビア、ありがとう」


 少しの間を置いてから、レオン様は真面目なトーンでお礼を言ったきた。

 なんの脈絡もなしにいきなりだ。

 

 そんなことを言われたものだから、私はちょっとびっくりしてしまう。


「あらたまって急にどうしたんですか」

「……なんというか、いい機会だと思ってな。これまで君がしてきてくれたこと、全てに対して礼をしたくなった」


 目の前に広がる湖を遠い目で眺めるレオン様は、目尻をほんのりと上げている。

 嬉しそうに笑っているかのようだった。

 

「酷い対応ばかりしてきた俺と、君は距離を縮めようとしてくれた。本当に嬉しかった。それがあったから、俺は少しだけ変わることができたんだ。オリビアには感謝してもしきれない」

「私は自分がやりたいことをしているだけです。感謝はいりませんよ」

「だとしてもだ。俺はどうしてもこの気持ちを伝えたかった。オリビア。これからもよろしく頼む」

「こちらこそです。これからも楽しい思い出をいっぱい作りましょうね。二人で!」

「あぁ。君がいれば、俺はどこまでも行ける気がする」


 湖を眺めていたレオン様が私の方を向く。

 真紅の瞳には温かな光が宿り、口元には包み込むような優しい笑みが浮かんでいた。

 

 それは、初めて見るレオン様の表情だった。

 

 大喜びしている満面の笑みではない。

 どこにでもありふれているような普通の笑顔で、特別感はまったくといっていいほどなかった。

 

 でも、どうしてだろうか。

 

 なんでもないはずのその笑顔が、私の胸に突き刺さる。

 強烈な爪痕をつけられてしまった。

 

「うん? 急に固まってどうした?」

「……い、いえ! なんでもありませんよ……あはは!」


 ごまかしの苦笑を浮かべた私。

 手に持っていたサンドイッチを、慌てて口の中へ放り込む。

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