【10話】レオン様とケーキを食べる
お菓子屋さんに向かうと、一時間前は閉まっていたドアが今は開いていた。
やっと入れるわ!
胸の前でガッツポーズを決め、意気揚々とお店の中に入る。
私を迎えたのは、店内にいっぱいに満ちている生クリームの甘い香り。
最高のお出迎えに、私の興奮度はさらに上がっていく。
「どれも美味しそうですね!」
うーん……どれにしようかしら。
ショートケーキ、チョコタルト、モンブラン。
ショーケースに並べられているケーキは全部美味しそうだ。
どれにしようか迷ってしまう。
「迷っているなら全て買ったらどうだ? 我慢していた分、好きなだけ食べるといい」
「……いや、それは」
本音を言えばそうしたいが、今日はレオン様と一緒。
欲望のおもむくままにたくさんのケーキを食べる姿を見せるのは、ちょっと恥ずかしかった。
「レオン様はどれにしますか?」
「実を言うと、甘すぎるのはそこまで得意でなくてな。おすすめはあるか?」
「でしたら、こちらはどうでしょう」
私が指したのはレアチーズケーキ。
生クリームを使っていないので、甘いものが苦手な人でも食べやすいはずだ。
レオン様は、私がおすすめしたレアチーズケーキ。
私はショートケーキを購入する。
店内には喫食スペースが設けられていた。
テーブル席に向かい合わせで腰を下ろした私とレオン様は、さっそくケーキをいただいていく。
う~ん! 最高!!
口に入れた瞬間、ふわふわなスポンジが広がっていく。
滑らかな生クリームの味わいが、それを優しく包み込んでくれた。
バランスの取れた、極上の逸品だ。
「おお。これなら俺でも食べられるぞ。しかも、かなりうまいな」
対面に座るレオン様も、レアチーズケーキを絶賛している。
美味しいと言ってもらえて良かったわ。
じー……ゴクリ。
私の視線が、レオン様の食べているレアチーズケーキを捉える。
白き輝きを放っているクリームチーズの層はなんとも美しく、まるで芸術品のよう。
これは絶対に美味しいやつだ。食べなくても分かる。
食べなくても分かる……けど、食べたい!
「…………食うか?」
「よろしいのですか!? ありがとうございます!」
大喜びで、レアチーズケーキを一口いただく。
やっぱり美味しいわ!
濃厚なチーズのコクと酸味が最高にマッチしている。
思っていた通りの、至極の美味しさだった。
「レオン様も私のショートケーキを一口――って、ごめんなさい。甘いもの食べられないんですよね」
「いや、好きではないというだけだ。食べられない訳ではない。……せっかくだ。一口もらおう」
ショートケーキを食べたとたん、レオン様は目を見開いた。
美味しくて感動している――というよりかは、ビックリしているように見える。
やっぱりお口に合わなかったんじゃ……。
心配になった私は、心の声を聞いてみることに。
【お、美味しい……! でも、どうしてだろう。……あ、分かったかも。きっとオリビアと一緒に食べているからだ!】
なんだ。心配する必要はなかったわね。
口角をわずかに上げた私は、
「もしかすると、そうかもしれませんね」
心の声に対しての応えを小さく呟いてみた。
そんな根拠はどこにもないんだろうけど、もしそうだったのなら素敵なことだと思う。
「うん? なにか言ったか」
「いいえ、なんでもありません。……レオン様。楽しいですね!」
「あぁ」
私とレオン様を包むのは、柔らかくて幸せで楽しい時間。
このままずっと、二人でこうしていたいような気持ちになる。




