着手
資料は膨大だった。
この国の収支を記されている。
それだけでは役に立たない。
エリーザベトは財務大臣・ディディエに問うた。
「度重なる戦で赤字に陥っていますね。」
「はい。」
「そなたは如何に対処をするつもりですか?」
「税を課すしかございません。」
「民からですか?」
「はい。」
「貴族からは税を徴収していないのですね。」
「それは、貴族から徴収すべきと仰っておられるのですね。」
「単に徴収しても、その税の分だけ民に重税を課すでしょう。貴族は……。」
「左様です。貴族に税を課すことの意味はありません。」
「民への税は国が決めていないのですか?」
「国税は決めておりますが、別途、領主は税を課しております。」
「それを廃止できないのですか? 王命により……。」
「廃止しても無意味です。彼らは課します。」
「王命に背くような貴族が必要でしょうか?
陛下に伺っておいてください。そなたから……。
貴族に税を課すという選択をご考慮頂くように。」
「……承知いたしました。」
「そなたからの進言とすることにより、そなたは貴族たちから恨まれるでしょう。
たが、国民からは称賛を得られるでしょう。」
「……恨まれる方が遥かに身の危険を感じます。」
「やってください。この国のために……。」
「何故、そのようなことを?」
「民なくして国は無いからです。
貴族は民の上に立っているのではない。
立たせて貰っているのです。
そうでしょう? 何も生み出していないのが貴族なのですから……。
勿論、私もその一人です。」
「王后陛下………。」
「それと、この資料によれば、敗戦国の賠償金を帝国と公国から得ていますね。
それには、まだ手を付けていない。」
「はい。」
「その賠償金から施設の費用を捻出します。
施設で働く者は、家族を失った妻や母にします。
戦死者の家族を路頭に迷わせてはなりません。
この旨、陛下に進言してください。
私は夜しかお会いできませぬ故、そなたから……。
いいですね。」
「はい。承知しました。」
「陛下のご英断を賜ることが出来れば直ぐに着手します。
その手筈も、そなたの知恵を私に授けて欲しい。」
「御意にございまする。」
その日は夜になっていないのに、レオポルトの先触れがあった。
そして、初めて国王・レオポルトが王妃・エリーザベトの部屋を訪れたのだ。
カーテンシーで夫を迎えたエリーザベト。
「陛下におかれましてはご機嫌麗しく恐悦至極に存じます。」
「挨拶なぞ不要!
そなたの試みは聞いた。」
「して……陛下は如何に思われたのでございましょうか?」
「気が急いておるのか?」
「はい。子らを救わねばなりませぬ故。」
「してみよ。
あの賠償金全て、そなたに任せる。」
「陛下、ありがたき幸せに存じまする。」
「貴族への税だが……朕も考えておった。
やり方を間違えてはならぬ故に……なかなか出来るまでには至らぬ。」
「御意にございまする。」
その日、国王・レオポルトは翌朝までエリーザベトの部屋に居た。
長く話をし、ベッドの中でも様々な話をして過ごした。
結婚して初めて夫と心を通わせられた一夜だった。