国境
デュッセルドルク帝国の帝都に到着したのは3日後だった。
午前中に帝都に到着するように行程は決められていた。
帝都に到着して直ぐに皇帝・ハインリヒ4世と皇后・マリアとの謁見が待っていた。
まだ若い皇帝夫妻。
ハインリヒ4世陛下は、黄金の髪と青い瞳を持つ。
皇后・マリアは美しいブルネットの髪の麗しい女性だ。
カーテンシーで挨拶をするエリーザベトに、皇帝夫妻は出来得る限りのことをしたいと思っている。
「そなたには急がせてしまうが、明日フリーラン王国へ向かって貰う。
そなたの両親には出来得る限りのことを行うと誓う。」
「勿体ないお言葉でございます。」
「そなたの衣装は、デュッセルドルク帝国の国旗と同じ色である。」
「はい。ご用意して頂き誠にありがとうございます。」
「そなたの国の色に出来なかったことは許せ。」
「勿体のうございます。」
「青が……そなたに似合うことを望んでいます。」
「皇后陛下……勿体のうございます。」
「そなたに幸あれと祈っておる。」
「心より感謝申し上げます。」
「では、今宵だけだがゆっくり過ごせ。」
「はい。ありがとうございます。」
それから、エリーザベトは用意された部屋で休み、翌朝を迎えた。
朝、嫁ぐ日に皇帝陛下より首飾りを賜った。
そして、デュッセルドルク帝国皇帝夫妻に見送られて、エリーザベトは馬車に乗り込んだ。
これからフリーラン王国へ向かう。
到着は7日後だ。
初めて見たデュッセルドルク帝国の景色を忘れないしようと、馬車から窓の外を見ていた。
車窓から見える景色は流れるように変わっていく。
その景色を見ながら「この先のフリーラン王国はどんな景色なのだろう。」と嫁ぎ先のフリーラン王国に思いを馳せた。
まだ見ぬ国の景色に……。
そして、ようやくフリーラン王国とデュッセルドルク帝国の国境に到着した。
国境では花嫁を迎え入れるような雰囲気ではなかった。
それは、人質を迎え入れるものだった。
物々しい兵たちが多かった。
ほぼ兵だった。
そこに文官はいなかったのだ。
一人の将が前に出て大きな声で言ったのだ。
「これよりは我がフリーラン王国陸軍がご一緒する。
我が名はオベール将軍である。
姫にはこちらの馬車に移って頂く。
姫以外はお帰り頂く。」
誰も異を唱えられるはずがなかった。
エリーザベトは政略結婚ではなく、ただの人質であると……将軍は言ったのだ。
エリーザベトは馬車から降り、オベール将軍率いる陸軍の兵たちの前で、美しいカーテンシーを見せて挨拶をした。
⦅どんな目に遭おうとも、私はフラン公国の公女であり、今やデュッセルドルク帝
国の皇女なのだから……胸を張り毅然としなければならないのだ。⦆
⦅私がエリーザベトである限り……。⦆
そう言い聞かせながら、フリーラン王国が用意した馬車に乗った。