永遠の愛
新学期になって最初の授業である。
扉が開いて教師が入って来た。
騒いでいた生徒たちが静かになったところで教師が話し始めた。
「今日は特別授業です。
これから、この国の成り立ちを学びましょう。
特別な先生をご紹介します。
どうぞ、お入りください。」
二人の男性が入って来た。
一人は年が若かった。
「この方々はフリーラン州からお見えになりました。
これから、この国の歴史を学びましょう。」
「よろしくお願いいたします。」
「はい。」
隣で友達が小さな声で「歴史って、もう知ってるのにね。」と言った。
「うん。そうよね。」と相槌を打ちながら、目は教壇に立っている男性の隣の若い男性から離れることが出来なかった。
今は彼しか見えなかった。
「私は元フリーラン王国の国王の末裔です。
名前はアンリ・ド・フリーランです。
隣は私の甥です。」
「甥のレオポルト・ド・フリーランです。」
教室に居るフリーラン州の生徒は大歓声を上げた。
その時に、レオポルト・ド・フリーランと目が合ってしまったのだ。
頬が熱くなって胸の動悸が止まらなくなった。
授業は進んでいた。
「……ということで、戦争に勝った後で4つの国の統合が始まりました。
最初に統合されたのは、元々デュッセルドルク帝国から王弟が大公になり公国を
築いたこともあり、最初の統合はデュッセルドルク帝国とフラン公国でした。
その後、長年の同盟国だったイオニア王国が統合されたのです。
そして、我がフリーラン王国が一番最後に統合されました。
どうして、この統合が成ったのか……それは、あの戦争です。
海の向こうの大陸から攻められて初めて4つの国が共に戦いました。
その経験が、同盟の強化に留まらず国の統合に至ったのです。
それぞれの国を州として、それぞれの首都を州都に定めたのです。
各国の産物が重なっていましたが、それも考慮しました。
先ず、小麦はイオニア州とデュッセルドルク州での主たる農作物としました。
他の州も小麦を作っていますが、主ではありません。
大麦はフラン州で、茶葉はフリーラン州で主に作ると定めたのです。
一つの国にしたことで、関税は掛からなくなりました。
そして、それらの農作物を国が買い取ります。
農作物は天候によって変わりますが、国が毎年、同じ金額で買い取ることにより
備蓄をし、飢饉になった際に、その備蓄を放出することを決めたのです。
これらは、主に国王だったアンリ様のお考えを取り入れられたのです。
そして、戦争によって家族を失った者たち、とりわけ子どものための施設設立。
これは、戦争が終わって直ぐにフラン公国から始まりました。
始めたのはドミニク元帥夫人です。
後の国も施設を学ぶためにドミニク元帥夫人の招聘を行い、施設を作りました。
戦争は無い方が好ましい。
ただ、戦争を経て学びがあり、それを実施したからこそ今のこの国があります。
戦争が無い世界が一番望ましいのです。
ですが、侵攻されたら迎え撃たねばなりません。
侵攻されないために、阻止するために何が必要かをどうか考えてください。
一人一人が考えることの重要さを認識して頂きたいのです。
これで、私の授業を終わります。」
拍手が起こり特別授業は終わった。
終わった時に隣に座っている友達が声を潜めて言った。
「王家の末裔って……エリーザベトも大公家の末裔よね。」
「………えっ?」
「聞いてなかったの?…………もぉ~~~っ!
貴女も大公家の末裔よね。」
「正確には末裔じゃないけれども……。」
「でも、ご先祖様は大公家の公女だったのよね。」
「ええ……そうね……でも血がようやく繋がっているくらいの遠縁だわ。」
「それでも、あのドミニク元帥夫人と血が繋がっているのでしょう。」
「ええ……まぁ、そうね。」
「それって、やっぱり凄いわ!」
まるで夢見る少女のような表情をしている友達の肩越しに見えるあの男性から、エリーザベトは目が離せないままだった。
⦅気付かれたら……いけないわ。見ないようにしないと……。⦆とエリーザベトは思っていた。
その時、教師から声を掛けられた。
「エリーザベト!」
「はい。」
友達がそっと「先に帰るわね。」と言い、エリーザベトは「うん。」と答えた。
友達が帰っていく。
顔を先生に向けると、そこにあの人が居た。
頬が赤く染まっていくのを感じた。
「……何でしょうか?」
「先ほど紹介したアンリさんとレオポルトさんです。
こちらは、あのドミニク元帥と血縁のエリーザベトです。」
「ご紹介に与りましたアンリです。」
「私はレオポルトです。」
「私は……エリーザベトです。」
「エリーザベト……あの元帥夫人と同じ名前ですね。」
「はい。両親が元帥夫人にあやかるようにと名付けたと聞いています。」
「そうですか。
あの方は素晴らしい方でした。
お目に掛かってはおりませんが……。」
「ハハハ……失礼しました。」
「いいえ、先生に笑って頂いて良かったです。
エリーザベトさんは俯いたままですので……。」
「エリーザベトさん、大丈夫ですか?
お具合が悪いことは?」
「いいえ! 大丈夫です。ご心配をお掛けしてしまって済みません。」
「彼女を送っていきます。良いでしょうか?先生。」
「お願いします。」
「頼むぞ。レオポルト。」
「はい。」
二人だけで寮に帰る道を歩いた。
「大丈夫なら……………あの……。」
「はい。」
「顔を上げて頂けませんか?」
「えっ?」
「どうか私に貴女の青い瞳を見せてください。」
「青い瞳……。」
「ええ、黄金の髪と青い瞳のエリーザベト……。」
「何故?」
「やっと目が合った。」
「何故?」
「待っていたような気がするのです。貴女を……。
長い年月を経ても尚忘れられなくて……待ち続けていたような……
そんな気がするのです。
貴女に逢ってから……いいえ、貴女の姿を見てから……。」
「レオポルト様……。」
「リシーと呼んでも?」
「ええ、お心のままに……。」
「私のことは… 」
「レオ……。」
「そうレオと呼んで欲しい。君にだけは……。」
「レオ……。」
「リシー……待っていたんだ。会える日を……。
会ったばかりだけど……心が叫んでいるんだ。
愛していると………。愛しているリシー!」
「レオ……私も愛しています。貴方だけを……心から……。」
長い時を経ても、尚……想い続けたレオポルト王弟殿下の想いがやっと実るのだろうか……。
今の若い二人、レオポルト17歳とエリーザベト15歳。
それは、あのエリーザベトの最初の人生でレオポルト国王と結婚した年齢だった。
これから先の人生で二人で過ごせる平和な時間を……とレオポルトもエリーザベトも願うのだった。
永遠に二人が一緒に居れる時間を……と切に願ったのだった。