さようなら
皇帝陛下の養女になるためにデュッセルドルク帝国へと向かった公女・エリーザベト。
城を出る前に夢の中へ入ったばかりの妹の額に優しく口づけをして、「健やかに……幸せに……。」と囁き、まだベッドに入っていなかった弟には「私は今から国のためにデュッセルドルク帝国へ向かいます。皇帝陛下の養女になり、フリーラン王国へ皇女として嫁ぎます。貴方は父上の後を継げるように立派な大人になってね。健やかで……立派に跡を継げられる公子になってね。」と告げ抱きしめた。
弟は涙でほほを濡らしながら「はい。姉上。」と背筋を伸ばして言った。
向かう先はデュッセルドルク帝国・帝都。
そして、その先にはフリーラン王国の国王の元へ嫁ぐことが決まっていた。
逃げられない。それが公女・エリーザベトの運命だった。
凛として咲く花の如く美しい公女・エリーザベト。
城を出る時のエリーザベトの覚悟を秘めている姿からは、覚悟故か……凛とした美しさが際立っていた。
馬車に乗り込んだエリーザベトは、遠ざかっていく生まれ育った城に、家族に別れを告げた。
「お父様、お母様……お健やかにお暮しくださいませ。」
馬車は進んでいく。
もうすぐ国境が近い。
「公女様、まもなく国を出ます。」
「はい。」
国境ではデュッセルドルク帝国からの使者と侍女が待っていた。
そこで、馬車を乗り換えた。
付いて来た侍女とも、ここでお別れである。
馬車を乗り換えた時、国に戻る馬車の前で侍女はじめ付いてきた人たちが一列に並んで頭を下げていた。
「今までご苦労でした。
帰路の無事を祈っています。」
そう言った公女・エリーザベトは、国から付いて来た者たちに綺麗なカーテンシーで別れを告げた。
そして、振り返らずに馬車に乗った。
「さようなら……私の愛する国……。
生きて再び会うことが無い人達を……。
神よ。 どうか、彼らを守り給え。永遠に……。」
公女・エリーザベトを乗せた馬車は一路、デュッセルドルク帝国の帝都へ向かって走って行った。
公子、公女は、中国の春秋戦国時代の諸侯国の公族の子弟を公子と呼び、子女を公女と呼んでいたものです。
ここでは、公国の王女と王子を、敢えて「公子」と「公女」にしました。
公国=公子・公女
帝国=皇子・皇女
王国=王子・王女
上記のように国によって変えています。