リシー
兄・フロリアン王太子から愛するエリーザベトが婚約したことを聞かされたレオポルト王子。
彼にとっての初恋は叶わない恋だった。
エリーザベトからの手紙を何度も読んだ。
何度も、何度も、涙を落としながら……レオポルト王子は読んだ。
そして、もうエリーザベトからの手紙が届くことはないと、失意に沈む中、レオポルト王子は思った。
⦅リシー……出来ることなら……君を奪いに行きたい。
でも、許されない。
君の気持ちが分からないから……。
第一、私は……私は人質だ!
君を迎えに行く権利すらない。
会いたい! ただ会いたい!
会って君の気持ちを知りたい。
君がもし私を愛してくれているのなら……
私は皇帝陛下に願い出よう! もう無理でも……
私の気持ちを皇帝陛下にお伝えして……
そして……私の願いを受け入れて頂くよう……何度も……
何度もお願いしよう!
でも、君の気持ちが分からない……分からないから……
何も出来ない!
リシー、私はまだ君の幸せを願うだけにはなれないよ。
なれないのだ。
愛している! 心から君だけを………。⦆
失意のままのレオポルト王子にとって、帰国する前に兄・フロリアン王太子が残した言葉だけが前を見ることが出来る言葉だった。
「レオ、今は辛いだろう。
その辛さは私にも分かる。
だが、いつか、いつの日にか……愛の意味を知ると思うよ。
本当の愛を……。
愛されるよりも愛すること……それが愛なのだと……。
それには、レオ。もっと知らねばならないよ。
様々な人の心を……
今は無理なことだけどね。
それと………
父上と母上、そして私がレオを愛していることは忘れないでおくれ。」
「王后陛下も……私を? あのようなことをした女の子どもなのに?」
「愛されているよ。母上は……。
レオを大事な息子を救ってあげて欲しいと父上に懇願された。
母上のお身体が癒える日が来るように祈っておくれ。
母上の愛は確かにレオを包んでいるのだよ。」
「兄上……。」
「いつか、君は私の右腕になってくれるのだろう?」
「はい。」
「その日を私は楽しみにしているよ。」
「はい。」
「レオが戻って来られるように、我がフリーラン王国を守らねばならぬな。
炙り出せるように……。」
「兄上……決して無理をなさいませんように、お気をお付けください。」
「うむ。……レオは大切な我が弟。愛しているよ。レオ!」
「はい。私も兄上を愛し尊敬しております。」
いつか、本当の愛を知る日が来るのだろうか……そう思うレオポルト王子だった。
「愛とは……愛されるよりも、愛すること……。愛すること……。」
兄の言葉を繰り返していた。