初恋
レオポルトは祖国の政変を兄からの手紙で知った。
⦅兄上………ご無事で何よりでした。
おじい様、死罪は已むを得ません。
ただ……兄上に申された最後の言葉が引っ掛かる。
何も起きなければ良いのだが……。
………兄上が来られるのだ。
早くお目に掛かりたい! ご無事なお姿をこの目で!
………リシー、どうしているのかなぁ……
返事が来ない………。
私は愛されていない……ということだろうか?
リシー! 君に会いたいよ。⦆
兄のフロリアン王太子がデュッセルドルク帝国にやって来た。
10歳で人質になったレオポルト第二王子と兄のフロリアン王太子の面会は2年振りだった。
挨拶を終えた二人は二人きりになってから抱き合って再会を喜んだ。
「大きくなったね。レオ!」
「兄上こそ……いつ王位を継がれても問題ないように思います。」
「そんな口を利けるようになったんだね。」
「兄上……あの……私の母のことでございますが……
命を助けて下さって……ありがとうございます。」
「弟の……レオの母上なんだぞ。
どんな方であっても、レオを産んでくださったことには変わりない。
私はレオが弟で良かったと心から思っているよ。」
「兄上……。」
「大きくなったと思っていたが、まだ子どもだね。
涙を拭こうね。」
優しくハンカチで涙を拭いてくれている兄にレオポルトは深く感謝していた。
「私は兄上のために生きます!」
「レオ、ありがとう。」
「…………兄上、おじい様が最後に兄上に仰った言葉が気になります。」
「それは、私も同じだよ。
オベール将軍とセリーヌの後ろに誰かが隠れている。
そう思っている。」
「どうか、十二分にご留意のほど!」
「うん。分かっている。父上と母上、そして私の命を狙っている者が…
きっと居る!」
「はい。どうか気をお付けください。」
「うむ。」
二人は夜遅くまで話し込んでいた。
レオポルトは兄にエリーザベトのことを話した。
兄は驚いた。
そして、言ったのだ。
「レオの初恋だね。
叶えてやりたいが……他国の公女となれば厳しいかもしれない。」
「はい。でも、私はリシーを迎えに行きたいのです。」
「それには先ず今の状況を変えなければね。」
「はい。」
「未来があるね。レオには……。」
「兄上?」
「私の初恋は叶わなかった。」
「兄上の?」
「私も初恋があったのだよ。
隣国の王女だった。
……戦を仕掛けた我が国が鉱山を取ったあの国だ。」
「兄上……。」
「敵になったのだよ。」
「国交があった国だったのだ。あの戦までは……。
だから、私は一度長期間……滞在した。
学ぶために……鉱物について……。
その時に出逢ったのだ。
今も忘れられない女性。
だが、妃を迎えたからには……妃を愛さなければならない。」
「兄上。兄上は義姉上のこと愛してはおられないのですか?」
「政略なのだよ。愛からは始まる結婚ではない。
それは妃も同じだ。カロリング王国から嫁いでくれたのだ。
絆を……これから二人で紡げられたら良いと思っている。」
「そうですか……。」
「だからこそ! レオの初恋は実らせたいと思う。」
「兄上!」
「先ずは、我が国を安定させてレオが戻って来られるようにせねば!な。」
「兄上!」
デュッセルドルク帝国・皇帝のことに話が及んだ。
「皇帝陛下の謁見を終えて思ったのだが、随分お身体が芳しくないのでは?」
「はい。ここ1年ほどで、より一層……お弱くなられました。」
「まさか……我が国が?」
「いいえ、それは無いと思います。
私が来る前からだと伺っておりますので……。」
「そうか……確かにご年齢を思うと、お身体のことは……。」
「はい。」
「こちらの皇太子殿下が羨ましいな。」
「兄上。」
「国の中は問題ない。その上、フラン公国のフラン大公がいらっしゃる。
相談役にも恵まれておられる。
私には……居ない。」
「兄上には私がおります。
どんな状況になりましても、私は兄上のお力になりたいと切望しております。」
「レオ……弟が居て良かった。」
「兄上。」
「頼む。私の将来の王弟殿下!」
「はい。」