政変
フリーラン王国では大きな政変があった。
レオポルトからの手紙を元に、国王は国唯一の鉱山に連なる山々に鉱物があるか確かめた。
すると、元の国境付近の山に鉄が眠っていた。
その鉱物を探す指揮を執ったのは王太子だった。
王后陛下の体調も少しずつ戻っていった。
どうやら、毒を毎日少量盛られていたようだった。
レオポルトの母・セリーヌを愛妾に迎えた頃にセリーヌの父親であるオベール将軍が推挙し、王后陛下付き侍女になった者たちを辞めさせた。
オベール将軍推挙の侍女を辞めさせただけで、王后陛下の体調が明らかに戻ったのだった。
焦ったのはオベール将軍とセリーヌだった。
特にデュッセルドルク帝国とフラン公国への入国が難しくなったのもオベール将軍を苛立たせた。
「大丈夫じゃ。まだ彼国にはレオポルトがおるではないかっ!」
「そうではございますが……お父様。
私は不安でございます。」
「案ずることはない。まだ、何も変わってはおらぬ。
そうであろう?」
「そうでは……ございますが………。」
「こうなれば、レオポルトが自らデュッセルドルク帝国に人質になる!と
言ってくれたことは幸いだった。
密偵の役を今よりもさせねばな。今は不充分だ。」
「それが、あの子は取り立てて役に立つ情報は今まで一度も……。」
「これからは今よりも存分にや悪に立って貰わねばなるまい。
そのように文に書け!」
「はい。」
⦅それにしても……王太子め! 鉱物など探し出しおって!
他国を侵略する大義名分が無くなったではないかっ!
セリーヌは王后陛下の毒殺を願ったが、毒殺すべきは王太子だ。
次の手立てをせねばなるまい。
侍女を……今、仕えている侍女をこちらの手先にせねばなるまい。
そして、毒見役も、な。
さて、如何にすべきか……。⦆
そして………王太子の食事の時に異変が起こった。
毒見役は「毒ではございません。」と言った。
それを、聞いた王太子は毒見役に命じた。
「そなたが食せよ。」
「殿下……このお食事は殿下のお食事でございます。」
「毒は無いのであろう?
ならば、そのように震える必要は無かろう?」
「………しょ……承知いたしました。」
「待て!」
毒見役が食べようとした時に、その品を近習が取り上げて金魚鉢に入れた。
すると、金魚は直ぐにお腹が上になって死んだのだ。
「捕らえよ!」の言葉と同時に近衛兵により捕らえられた毒見役。
厳しい取り調べを受けて、「オベール将軍から命じられたこと」「オベール将軍から家族の命を質にされたこと」を話したのだ。
毒見役のポケットに毒が入っていた小瓶も見つかった。
近衛兵の動きは迅速だった。
このことが明るみに出る前にオベール将軍とセリーヌを確保したのだ。
「何故! 何故、分かった?」
「毒見役が目の前で不審な動きをしたのを近習が見逃さなかったからだ。」
「あの役立たずがっ!」
「貴方は英雄なのに、何をしたかったのだ?」
「我が娘が生んだレオポルトを国王にするために決まっておろう。
そうすれば、このオベールが政治をする。
ただの槍では終われない!」
「我が弟レオポルトは、貴方の言いなりになるような王子ではないわっ!」
「ふふふ……あははは! それは、どうかな?
言いなりになるしかない方法もある。」
「貴方という人は……死罪は免れぬ。覚悟をせよ。」
「あははは………。いつまでも、王家が王家のままでいられると思うなよ!」
「………? 」
直ぐに裁判が開かれた。
そして、オベール将軍は死罪になった。
セリーヌは王太子の助命嘆願により、王城の地下牢から一生出られないようになったのだ。
大きな政変だった。
陸軍の英雄が逆賊に落ちてしまったのだ。
このことは正式にデュッセルドルク帝国に伝えられた。
そして、王太子がデュッセルドルク帝国に国王の名代として遣わされた。
事の詳細を伝えるために……そして、第二王子・レオポルトの今後について話し合うために……。