もう一つの別れ
フリーラン王国は鉱物が取れない国である。
そのために近隣の国に攻め入って領地を増やすことを幾度も試みていた。
やっと戦で一つの鉱山を得た。
その時の英雄が、あのオベール将軍だったのだ。
でも、それだけでは足りなかったのであろう。
だから、近隣で最も鉱物が取れるフラン公国を欲していた……それが、エリーザベトが経験した過去でなのだ。
戦にて勝ちとった鉱山は、フリーラン王国との国境に近い所だった。
⦅もしかしたら……フリーラン王国内にも鉱山があるかもしれないわ。
今日もお会いする。
その時に、鉱山は見つからないかもしれないけれども……
探すことをすべきだわ。
進言申し上げよう。
見つからないかもしれないけれども、見つかれば戦をしなくても……。
戦をしなくても良いのではないかしら?
愚かな考えかもしれないけれども、進言しよう。⦆
今日はエリーザベトの部屋にレオポルト第二王子が訪れることになっている。
もうすぐ、この部屋に来られる……そう思うだけで頬が熱くなっていた。
その頬のほてりを鎮めようとしている時、部屋の扉がノックされて、侍女が第二王子の訪問を告げた。
「エリーザベト、お招きありがとう。」
「お越し頂き恐悦至極に存じます。」
「君のカーテンシーは美しいね。いつも惚れ惚れするよ。」
「まぁ………。」⦅恥ずかしいわ。………頬が熱い……。⦆
「そんなに恥ずかしがらないでおくれ。
私は間違っていないと思うよ。
美しいのだから、美しいと……駄目だった?」
「いいえ、そのようなことはございません。
お褒めにあずかり誠に恐悦至極に存じます。」
「どうぞ……。」
「ありがとうございます。」
暫く経って思い切って話をした。
「あの………殿下。
殿下のお国では鉱山を戦で得たと仰せでした。」
「うん。戦で得た。」
「その鉱山は離れていますの?
今までの領地と……。」
「否、そんなに遠くないと思うよ。」
「あの!……お国では全ての山をお調べになったのですか?
鉱物が取れるかどうかを……。」
「探しつくしたと思うけれども、私には分からないよ。」
「その取った鉱山のお近くは、元の国境に近いのですか?」
「うん。近いと思う。……どうして?」
「もしかしたら、でございますが……
国境に近い所での鉱物の有無をお調べになっていなかったかもしれないのでは?
と思いました。
それならば 」
「出てくるかもしれないね。我が国で鉱物が。」
「はい。」
「兄上に連絡するよ。あの手紙で……。
そうか、そんなこと考えたことも無かったよ。
出ない国だと思っていたからね。
もし、出れば……変わる。我が国は……。
ありがとう。エリーザベト。」
「いいえ、探す前でございますよ。まだ出ておりませぬ。
殿下からお礼を頂くのは気が引けます。」
「そうだった。もう出た気になってしまっていたよ。
それから……もう帰る日が近いのだよね。」
「……はい。」
「いつ? 何時?」
「明日でございます。」
「明日!……何時に?」
「午前10時には帰国の途に就きます。」
「もう……会えないのだろうか?」
「はい。それは……たぶん…そうでございましょう。」
「エリーザベト、手紙を書くよ。
それから、お願いだ。
私のことをレオと呼んでくれないか?
兄上が私をレオとお呼びになるのだ。
兄上に付けて頂いた愛称なのだ。
皇太子殿下にもそのように呼んで頂いている。
だから……君にもレオと呼んで欲しいのだ。」
「そのようなことは………。」
「レオと呼んで欲しい。
それから、私は君のことも愛称で呼びたい。
君の愛称は何?」
「私に愛称はございません。」
「そうだったのだね。
じゃあ、私が付けよう!
君は可愛いから……リシー。 リシーと呼ぶよ。
私だけが君のことをリシーと……いいよね。」
「それは……殿下のお心のままに……。」
「リシー。」
急にエリーザベトの手をレオポルトが取った。
「殿下! お手を御離し下さいませ。」
「君が私のことをレオと呼んでくれたら離すよ。」
「殿下!」⦅レオとは……呼べないわ。⦆
「レオ!」
「…………レ……オ様。」
「リシー! 嬉しいよ。でも、様は要らないな。」
「あの、手を御離し下さいませ。」
「もう一度、レオと呼んでくれたら! 様は無しで!」
「……レオ様。」
「様が付いているから離せない!」
「意地悪でございます。」
「誰が?」
「……レ…オ………。」
「良く出来ました。」
「御離し下さいませ。」
「離したくないのだけれど、約束だから……。」
翌朝、エリーザベトは帰国するために皇帝陛下、皇后陛下並びに皇太子殿下に謁見し、別れの挨拶をした。
そして、馬車に乗り込む寸前に声を掛けられた。
「リシー! 間に合って良かった。」
「……!………。」
「これ、陛下にお願いして庭園の花を摘んだのだ。
摘んだ花しか渡せないけれども……。」
「ありがとうございます。……嬉しい……。」
「……いつか……私が大人になったら……迎えに行くよ。
だから、待っていて!」
「えっ?」
「手紙を書くよ。リシーも返事を書いて!」
「はい。……お元気で!」
「リシーも……最後に、レオと呼んで欲しい。」
「そんな………。」
「さぁ、時間がないよ。」
「……レオ……。」
「また、必ず会おう。待ってて!
元気でね。」
「はい。お元気でお暮し下さいませ。」
馬車に乗り込んだ後、レオポルト王子から貰った花を抱きしめて、エリーザベトは涙を流した。
過去の夫・レオポルトからは花など貰ったことが無かった。
初めてレオポルトから貰った花を大切に胸に抱いて、エリーザベトは泣き続けた。
どうして涙が流れるのかエリーザベトは分からなかった。
⦅さようなら……レオポルト様。
もう二度とお目に掛かることはございません。
永遠に……さようなら……。⦆




