国の安定
レオポルト第二王子との会話は全て皇帝陛下にお話しした。
陛下は一言「そうか……。」と仰っておられた。
それからは、デュッセルドルク帝国に居る間、毎日、エリーザベトはレオポルト第二王子と主に庭園の東屋で散策したり、お茶を楽しんだりした。
「エリーザベト、兄上から手紙が届いたんだ。」
「良うございました。」
「兄上は父上と王后陛下そして兄上ご自身の毒見役を替えられたんだ。
今までは、おじい様が決めた人だったのだ。
実は王后陛下が体調を崩されて……私は知らなかった……。
王后陛下は庶子である私を慈しんでくださった。
母上とは違って……だから、知らなかったこと……悔やんでいる。」
「殿下……。」
「馬鹿だよね。知っていても何も出来ないのに……。」
「そのようなことは……王太子殿下へのお手紙で事態が良くなれば……
何よりも王后陛下のお身体が回復されることではございませんか?
今は遠くからお祈りなされば………。」
「エリーザベト、ありがとう。」
「あの……。」
「何?」
「殿下のおじい様はどんなお方なのでしょうか?」
「おじい様は……陸軍の将軍なのだ。
先の戦でも武功を上げていて、隣国の鉱山を……我が領地にした人なのだ。」
「お名前は……なんと?」
「オベール将軍だよ。」
「オベール将軍!…………では、陸軍大臣でございますね。」
「いいや、陸軍大臣ではないよ。
陸軍大臣は伯爵家では出来ないのが我が国の定めなのだ。
公爵家でなければなれないのだ。
おじい様は、幾度も武功があったから……母上を愛妾に!と父上に……。
それが幸せだったとは思えないのだけれどもね。母上にとって……。」
「左様でございますか………。」
エリーザベトはレオポルト第二王子の寂し気な横顔が心に深く残った。
それは胸の痛みとして……。
今日のことも皇帝陛下にお話しした。
皇帝陛下は仰った。
「エリーザベト、国境の管理を厳しくしたのだよ。
この国も、そなたの国も……。」
「そうでございますか。」⦅良かった……。少しでも変わって欲しい。⦆
「全面的な鎖国は不可能だが、入る人をある程度は制限出来るようにしたのだ。
時間は今までの2倍以上掛かる。
人も必要になった。
人については貴族で長年働いている者の家族から選んだのだ。
出さねばならない書類が増えたこと、その書類も安易に手に出来ない書類だ。
長年、我が国、それから、そなたの国と交易があった者には出される書類だ。
新規の者には入れない国にした。
交易は減るが、少しでも国ために……。
それで、どう出るか……見ものだな。」
「早急に対処策を講じて下さり、誠にありがとうございます。」
「エリーザベト、そなたに密偵のような役をさせてしまっている。
済まぬ。だが、そなたのお陰で第二王子のことが分かった。
フリーラン王国のことも……。
嫌な役をさせて済まぬ。だが……この通りじゃ。ありがとう。」
「勿体のうございます。」
エリーザベトはレオポルト第二王子のことを思って眠れなかった。
密偵のようなことをしている自分が嫌だった。
そして、何でも話してくれるレオポルト第二王子への罪悪感が大きくなっていった。
⦅今日も皇帝陛下にお話して、レオポルト様に申し訳なく……。
騙しているのだわ。私は……レオポルト様を………。
……………それにしても…………
王后陛下のご体調を崩されたことが怖いわ。
毒じゃなければ良いのだけれども……。
快癒して頂かねば……レオポルト様のためにも……。
………あんなに寂しい子どもだったのね。知らなかったわ。
私の知らない国王レオポルト陛下だった。
これから、フリーラン王国はどうなるのかしら?
王太子殿下への王位継承がなければ……あの過去と同じになるわ。きっと……。
どうしても王太子殿下に王位を継承して頂かねばならないわ。
平和のために……………レオポルト様のために……。⦆