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幸せ  作者: yukko
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戦に備えるために

エリーザベトは勇気を振り絞って父・フラン大公に話し始めた。


「お父様、これから私が話すことは……信じられないと思います。

 でも、お話しないと……この国が滅ぼされてしまいます。」

「国が滅ぶ?……物騒な話だね。

 怖い夢でも見たのかな?」

「お父様……夢だったら……どんなに幸せでしょう……。」

「エリーザベト?」

「お父様、怖い夢と思って頂いて結構でございます。」

「エリーザベト………。」

「私が13歳になった頃に戦に巻き込まれます。

 相手はフリーラン王国です。

 フリーラン王国はデュッセルドルク帝国を陸から……。

 フラン公国には海から侵攻します。

 フリーラン王国の陸軍を率いるのはオベール将軍が……。

 海軍を率いるのはシモン将軍が……。

 最初にデュッセルドルク帝国の北の山岳からフリーラン王国陸軍が侵攻します。

 それに充分な備えの兵が居なかったデュッセルドルク帝国は敗退します。

 帝都を取られないように帝都までの陸の備えのために兵を集中させ……

 皇帝から援軍要請が出たフラン公国から援軍を出している間に……

 海からフリーラン王国が侵攻してきます。」

「エリーザベト……フリーラン王国は二つの国を相手に戦いをすると?」

「はい。」

「何のために。」

「一番欲しているのは我がフラン公国の鉱物です。

 鉄がなければ剣も槍も作れませんから……。」

「確かに、フリーラン王国は鉱物が出ない国だ。」

「デュッセルドルク帝国もフラン公国も……負けます。」

「フリーラン王国とは不可侵条約を締結している。

 侵攻されることを想定はしていない。

 それはデュッセルドルク帝国も同じだ。」

「はい。」

「エリーザベト……そなたは、どうすれば良いと考えるのだ?」

「先ずは、このことをデュッセルドルク帝国もご理解して頂きたく存じます。」

「うん。」

「多分、もうフリーラン王国の密偵が潜んでいることでしょうから……

 密かに知らせねばなりません。

 密書は暗号文にしていただきたいと存じます。」

「暗号文?」

「はい。それも今までの暗号文とは異なる暗号を使って頂きたく存じます。」

「……全く……9歳の子とは思えないね。」

「お父様……、信じては頂けるとは思ってはおりません。

 でも、どうしてもお伝えしたかったのです。

 戦に備えて頂くために……。

 戦で多くの将兵が死にます。

 彼らには家族がいます。

 お願いでございます。

 備えてくださいませ。戦に……。

 お願い申し上げます。お父様……。」

「いや、信じるよ。それが、そなたの夢の話であっても……。

 それから、このことは二人だけの話にしよう。

 密偵が潜んでいたら困るからね。」

「はい! お父様……ありがとうございます。」

「エリーザベト……。」

「お父様、国に入って来る民を制限できませんか?」

「制限……。

 それには、国を閉ざすと決めねばなるまい。

 それは、これから入って来る民に化けた密偵を可能な限り入れないため?」

「はい。」

「閉ざしても陸が繋がっているからね。島国でないから無理だよ。」

「はい。それでもフリーラン王国の密偵にとっては良くないことだと思います。」

「そうだね。

 ……エリーザベト、今度、皇帝陛下にお会いしてみてはどうかな?」

「皇帝陛下に?」

「そうだよ。この話を進めるために新しい暗号をそなたから陛下にお渡しするん

 だ。」

「私から?」

「そうだよ。それから、新しい暗号を考えておくれ。」

「私が、でございますか?」

「うん。そのほうが良いと思う。我々では考えつかない暗号を作ってくれると信じ

 ているよ。」

「お父様……私は……そのような有能な娘ではございませんわ。」

「いや、充分に有能な9歳の娘だよ。」


父は紅茶とお菓子をエリーザベトに進めた。

ホッとしたエリーザベトはゆっくり紅茶を飲もうとしたが、指が、手が震えていた。

それを見た父は「やはり9歳だったね。」と笑顔を娘に向けた。


「紅茶が覚めているね。新しい紅茶を用意させよう。」

「いいえ、ここに茶葉があれば私が淹れますわ。」

「エリーザベト……紅茶を淹れられるのかい?」

「お父様……それくらい出来ますわ。」

「いつの間に……出来るようになったのかな?

 そなたは、怪我をしてから大人になったのだね。」

「お父様……。」

「大人でも子どもでも、そなたは大事な私の娘だ。」

「お父様……。」

「そうだ! 負けた我が国は何を要求されるのかな?」

「それは……賠償金と私でございます。」

「そなたを……。」

「はい。国王の元に嫁ぎます。」

「それから、そなたは……どうなる?」

「………分かりません。」

「そうか……人質になってしまうんだね。

 それは絶対にさせてはいけないね。

 全てに対処できるよう備えよう!」

「お父様………。」


エリーザベトは嫁いだ後のことは話せなかった。

父が母が、幼い弟と妹が処刑されるなど思い出したくもなかった。

そして、一番思い出したくなかったのは国王・レオポルトの笑顔だった。

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